神経を取ると歯が弱くなるって本当でしょうか?パート2
兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。
栃木県宇都宮市神経を取ると歯が弱くなるって本当でしょうか?パート2
方法
人の単根歯、カリエスのないものを収集しました。
複根の大臼歯と比較して単純な単根の小臼歯が選択されました。
歯は、ドナーの年齢、性別を記録し、平衡塩溶液に保存しています。
目視できるカリエスや実質欠損がある歯は除外しました。
8人の被験者から合計12本の歯が収集され、若年群、高齢群、高齢失活群に分類しました。
高齢群と高齢失活群の4本は歯のペアをマッチングしました。
それぞれのペアは同じドナーから採取した同対称歯で構成されます。
歯は受け取ってから2週間以内にポリエステルレジンの土台に包埋し、正確なスライスマシーンを使用して、近遠心で歯軸方向に沿って切断しました。
得られた半分を低温硬化エポキシ樹脂に埋め込み、根管と断面を露出させました。
露出象牙質を象牙細管が明らかになるまで耐水研磨しました。
さらに3μmのダイヤモンド粒子入りの懸濁液と0.04μmのコロイダルアルミナ懸濁液で研磨しています。
試料を象牙細管内のデブリを除去するために20分間超音波洗浄しました。
これらの全ての過程はHBSS中で行い、動的機械的解析(DMA)を走査型プローブ顕微鏡を用いて行っています。
それぞれの評価領域では、貯蔵弾性率と損失弾性率が得られました。
これらは、弾力性と材料の減衰能力を表します。これら2つのパラメーターは複素弾性率で導くのに使用します。
損失弾性率と貯蔵弾性率の比は、組織の粘性反応の指標であるtanδを得るために使用されます。
統計解析は2元配置分散分析を用い、有意水準は5%としました。
データの正規性は統計解析前にチェックしました。
結果
複素、貯蔵、損失弾性率を表す表面形状と力学的特性分布およびtanδ分布が示されています。
これらのマップは評価の20μm×20μm窓を越えて得られています。
象牙細管と菅周カフは表面性状と力学的特性で明確であり、これにより菅間象牙質と菅周象牙質に対応する領域を正確に特定することができました。
細管の中央は、先端と開口した管腔の境界効果により、非現実的な物性値を示します。
このような領域は圧痕のアーチファクトであり、定量分析では除外しました。
若年群、高齢群での複素弾性率、貯蔵弾性率の違いははっきりわかりました。
具体的には、高齢群における菅間象牙質の貯蔵弾性率は、若年群と比較して大幅に大きい値でした。
対照的に、高齢群における菅間象牙質のtanδは、若年群と比較して小さな値を示しています。
歯根部位における管周象牙質の動的力学的特性の比較を行いました。
管周象牙質の力学的特性は、3部位全てで高齢2群と若年群間に有意差を認めませんでした。
しかし、高齢生活歯群の根尖1/3における管周象牙質の貯蔵、複素弾性率は、歯根中央部、歯冠側よりも有意に大きな値となりました。
さらに、管周象牙質のtanδは年齢、部位において有意差を認めませんでした。
管周象牙質の解析と同様に、菅間象牙質の動的力学的特性の定量比較をしました。
具体的には、若年群、高齢群、高齢失活歯群の貯蔵、喪失弾性率を比較しました。
部位的なバリエーションに関連して、高齢生活歯群での貯蔵、複素弾性率については、根尖1/3の菅間象牙質が他の2群よりも有意に大きい結果となりました。
これにより仮説1は棄却されました。
対照的に、若年群、または高齢失活歯群では部位差は確認出来ませんでした。
年齢群による違いについては、高齢生活歯群では、根尖1/3と歯根中央部の菅間象牙質の貯蔵、複素弾性率は、若年群よりも有意に大きくなりました。
さらに、高齢失活歯群の歯根から得た菅間象牙質の複素弾性率は、3箇所全てで有意に大きくなりました。
これにより仮説2も棄却されました。
一方で、喪失弾性率は年齢群間で有意差はなし、若年群のtanδは、部位にかかわらず他の高齢2群よりも有意に大きな結果となりました。
考察
Ryouらは菅周象牙質の貯蔵、複素弾性率は、生活歯では年齢で有意差はなかったと報告しています。
この知見は、本研究でも確認されています。
しかし、Ryouらは、高齢者の歯の菅周象牙質は有意に喪失弾性率とtanδが小さかったと報告しています。
これは、粘性減衰能が低いことを示唆しています。
この傾向はnanoDMAの走査モードでは観察されませんでした。
この違いは、この違いは、圧痕のメカニズムや、2つの異なる方法の適用に伴うサイズ効果に起因する可能性があります。
高感度走査モード解析により、菅周象牙質の性質を抽出することができました。
その結果、年齢による有意差はありませんでした。
さらに、Ryouらの研究は歯冠象牙質が用いられ、歯根組織は使用されていません。
この2つの組織の違いを知る事はとても重要です。
歯根部の菅周象牙質の動的力学的性質は、根尖側1/3を除いて加齢により変化はありませんでした。
高齢2群では、菅周象牙質の性質は、生活歯、根管処置歯で有意差はありませんでした。
著者の知るところでは、歯根菅周象牙質の部位による違いを評価した研究は過去にはありません。
硬化は20代で根尖部からスタートするので、かなり硬化が進んでいるであろう高齢群の根尖1/3は、貯蔵、複素弾性率が大きい事が予測されます。
実際、この2つの弾性率は高齢2群の根尖部では増加が認められました。
象牙細管へのミネラルの堆積は、圧痕反応の根本的な変化を起こすかもしれません。
細管閉鎖は、横方向の弾性変形の程度を抑制することによって、カフの物理的境界条件を変化させます。
他の可能性のあるメカニズムとしては、細管内の水溶液によって刺激された結晶の析出によるカフの緻密化です。
後者の説明は、若年者の象牙質のカフに比べて、老化した象牙質の結晶サイズが小さいことから支持されます。
しかし、これは生活歯のみの話で、根管処置歯にはあてはまりません。
弾性変形への大きな抵抗が高齢2群の菅周象牙質で認められた理由は不明です。
加齢に伴う象牙細管への取り組みに比べ、管間象牙質の特性の変化は、あまり注目されていません。
骨では、加齢による靭性の低下はほとんどコラーゲンマトリックスに起因しています。
歯では、菅間象牙質が象牙質全体の90%以上、タイプIコラーゲンが菅間マトリックスの約90%を占めています。
そのため、体積的に、菅間象牙質は歯根破折に抵抗するためには非常に重要であり、コラーゲン線維のメッシュは、破折への抵抗に欠かせません。
大きな体積を占めるので、コラーゲン、菅間象牙質の加齢による変化は、細管や菅周象牙質カフの変化よりも有害である可能性があります。
これは、最も象牙細管の密度が低い根尖側1/3に最もあてはまります。
20代から硬化が始まるので、根尖領域は歯冠部よりも遙かに長い期間硬化が進行しています。
結果的に、象牙質の加齢による性質変化は、根尖付近でもっとも顕著であると考えられます。
実際、高齢生活歯群で最も大きな変化が、今回の研究でも認められました。
Kinneyらは硬化について分解-沈殿理論を提唱しました。
菅間象牙質のミネラルが分解し、マグネシウムが豊富なβ-TCPとアパタイトが細管内に沈殿するという理論です。
そして、そのメカニズム説を支持するものとして、硬化象牙質は管間領域では結晶サイズが減少します。
菅間領域でのミネラルの体積比の減少により、複素、貯蔵弾性率は加齢により減少すると考えられます。
高齢生活歯、失活歯群両方において菅間象牙質では複素、貯蔵弾性率は部位に関係なく大きくなりました。
大きな貯蔵弾性率はミネラル量の増加、またはコラーゲン架橋の増加によるものと考えられます。
Yanらは、加齢により歯根部のミネラル-コラーゲン比と架橋構造の両方が増加することを最近報告しました。
この研究は生活歯のみを対象としていますが、その後の研究では根管処置後の歯も含まれ、失活歯は生活歯と比べてミネラル-コラーゲン比が小さいが、コラーゲン架橋は有意に多い事を報告しました。
これは、生活歯と失活歯の貯蔵、複素弾性率が大きいのは別のメカニズムによる事を意味しています。
実施された根管処置の詳細に関する情報がなければ、その研究における架橋の増加の原因を区別することはできません。失活歯の象牙質の加齢変化を解明するにはより多くの研究が必要です。
加齢による菅間象牙質の貯蔵弾性率の増加は、有害な結果となります。
菅間象牙質の任意のボリュームに同じ力を与えた場合、若年者の象牙質の貯蔵弾性率は小さいため、クリティカルなストレスに至るまでに大きなひずみエネルギーを集積する事ができます。
蓄えられる以上のひずみエネルギーは、破壊のためのエネルギーに変換されます。これは、象牙質の粘性変形が重要な役割を果たしているということです。
加えられた応力に対する粘性緩和を含む相対的な減衰能力を定量化したものです。
大きな損失弾性率ということは、若年者の象牙質は粘性緩和に優れており、ひずみエネルギーを分散します。
高齢者の象牙質では、25%近くtanδの減少が認められ、若年者よりも粘性ストレス緩和能力に劣る事が示唆されます。
粘性挙動に対するストレス緩和能力の喪失は、組織の脆化として表現されます。
そのため、高齢者における歯根破折の増加は菅間象牙質の脆化によると考えられます。
加齢に伴う脆化は、特に失活歯においてコラーゲンの架橋が重要な役割を果たしている、という前例があります。
骨内でのコラーゲンの架橋化は、加齢によるダメージ耐性の低下に寄与しています。象牙質のコラーゲンの架橋化が加速し、加齢により強度の低下に寄与します。
ドナーマッチした根管処置歯、未処置歯の象牙質における過去の研究でも、菅間のコラーゲン架橋化と破折強度の低下には相関が認められました。
そのため、菅間象牙質におけるコラーゲンマトリックスの架橋化は、根尖側1/3の変化と同様に、全ての部位での貯蔵、複素弾性率の上昇に潜在的に寄与しています。
この見解には、管間のミネラル化が物性変化の交絡因子でないことを証明するために、さらなる裏付けと評価が必要です。
最も興味深い知見の1つは、ドナーが同じ生活歯と失活歯間で象牙質に有意な物性の違いが認められた事です。
歯髄除去後の象牙質の構造変化は、象牙細管内液の喪失と歯髄内圧の低下だけでなく、細胞プロセスの欠如により予想外のものとなります。
結果的に、硬化の進行を引き起こす原動力が不活性化されます。
しかし、物性マップから、失活歯は生活歯と比べて、歯の全長にわたり象牙質の貯蔵、複素弾性率が大きい事が明確に示されました。
これは、根管処置による物性変化を示した最初の報告です。
高齢者の象牙質の動的力学的特性は、根尖側1/3から歯冠側1/3へと段階的に変化していきます。
根尖付近はより加齢変化が進行しており、部位による差は失活歯では明確ではありません。
失活した歯のコラーゲンは架橋化し、治療の結果変性すると考えるのが合理的です。
例えば、次亜塩素酸ナトリウムによるイリゲーションは、象牙質の弾性率や硬さに影響を与えることが証明されており、潜在的にコラーゲン変性の原因となります。
なので、まことしやかではありますが、さらなる研究が必要です。
抗菌作用があるからと言って、勉強不足な歯科医師がいると患者さんに不利益をおこす可能性があります。
もっとも重要なことは、ドナーの治療歴がわからないということです。
象牙質の微細構造はすべての歯で一貫しているように見えますが、その性質は人によって異なります。
食事、服薬、パラファンクションなど多くの要因の結果です。
患者要因は、ドナーが同じ生活歯と失活歯を使用する事で抑制しました。
しかし、ドナー間での加齢進行の違いは不明です。
さらに、根管処置歯について、治療方法や治療期間、治療時期などがわかりません。
これらは劣化の始まり、進行を理解するのに重要な因子です。
また、サブミクロンレベルでの粘性変形能力の低下の原因となる、微細構造と化学組成の具体的な変化の評価にも限界があります。
加齢に伴う象牙質の構造変化を原子レベルで調べるには、アトムプローブトモグラフィーのような先端技術を応用すべきです。
結論
成人の歯根象牙質の動的力学的特性を、年齢、歯髄の生死および組織学的位置の関数として評価しています。
高齢群の菅間象牙質は、若年群と比較して貯蔵、複素弾性率が(最大2倍)大きくなりました。
失活歯の象牙質は、ドナーマッチされた生活歯と比較して有意に大きな貯蔵、複素弾性率を示しました。
高齢の歯では、若年群と比較して貯蔵、複素弾性率が有意に小さく、tanδも小さくなりました。
まとめると、歯根象牙質は加齢により粘性変形のキャパシティが低下し、結果として脆化します。
この劣化は、歯髄除去を含む処置により増強され、根尖1/3で最も重篤となりました。
まとめ
粘弾性体として象牙質を見た場合においても、象牙質は加齢により貯蔵弾性率が大きくなる(硬くなる)、根管処置歯は未処置歯と比較して貯蔵弾性率が大きい、ということがわかりました。
特に根尖1/3での劣化が進んでいるということもわかりました。
根尖からクラックが発生して歯冠側に向かう、ということは、垂直歯根破折でポケット深さが根尖まで到達しなくても根尖まで割れている可能性が高い、ということかなと思われます。