歯をすべて失うと老化が加速する?「歯と健康寿命」の深い関係
栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。
「歯がなくなると食事がしにくくなる」「見た目が変わる」といった影響は、多くの方が想像できるでしょう。
しかし近年では、それだけではなく歯を失うことが全身の老化を早める可能性があることが明らかになってきました。
2026年2月、東京科学大学(Science Tokyo)大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野の研究グループは、英国の高齢者を対象とした大規模調査を分析し、歯をすべて失った人は、生物学的な老化が加速するという研究成果を発表しました。
この研究は国際的な歯周病学専門誌「Journal of Clinical Periodontology」に掲載され、大きな注目を集めています。
生物学的年齢とは?
私たちは普段、「60歳」「70歳」といった実際の年齢(暦年齢)で健康状態を考えます。
良く患者さんから、年だから仕方がないと言われることがあります。
しかし、近年の医学では生物学的年齢という考え方が重要視されています。
生物学的年齢とは、体の機能がどれくらい老化しているかを示す指標です。
同じ70歳でも、
- 元気に旅行やスポーツを楽しめる人
- 病気が多く介護が必要な人
では、体の老化の進み方は異なります。
研究では、以下のような健康指標を組み合わせて生物学的年齢を評価しました。
- 血圧
- 肺機能
- HbA1c(血糖の状態)
- 握力
- 歩行速度
- その他の全身機能
つまり、生物学的年齢は「体が実際には何歳くらいの状態なのか」を表す指標といえます。
研究の内容
今回の研究では、英国で行われている「English Longitudinal Study of Ageing(ELSA)」という50歳以上を対象とした大規模調査を利用しました。
対象者は1,889人です。
研究開始時点での健康状態や老化の程度を詳しく調べ、その後2年間追跡しました。
さらに、
- 年齢
- 性別
- 経済状況
- 持病
- 喫煙
- 飲酒
- 運動習慣
など、多くの影響因子を統計的に調整して解析しています。
明らかになった結果
最も重要な結果は、
歯をすべて失った人は、歯が残っている人より2年後の生物学的年齢が平均0.82歳高かった
ということです。
これは偶然ではなく、
95%信頼区間:0.40~1.24
という統計学的にも信頼できる結果でした。
つまり、
「歯を失っている人ほど体の老化が進みやすい」
可能性が示されたのです。
なぜ歯を失うと老化が進むのでしょうか?
今回の研究では原因そのものは断定していませんが、いくつかの理由が考えられます。
① 食事の質が低下する
歯が少なくなると、
- 肉
- 野菜
- ナッツ類
など硬い食品を避けるようになります。
その結果、
- タンパク質不足
- ビタミン不足
- ミネラル不足
になりやすく、筋肉量や免疫力の低下につながります。
② 炎症が全身へ影響する
歯を失う大きな原因は歯周病です。
歯周病では慢性的な炎症が続き、
- 動脈硬化
- 糖尿病
- 心血管疾患
との関連が数多く報告されています。
慢性炎症は老化を促進する要因の一つと考えられています。
③ 咀嚼機能の低下
噛むことは、
- 脳への刺激
- 唾液分泌
- 消化
- 栄養吸収
にも関係しています。
噛む力が弱くなることで全身機能の低下が起こる可能性があります。
④ 社会参加の減少
歯を失うことで
- 会話がしにくい
- 外食を避ける
- 人前で笑わなくなる
など社会活動が減ることがあります。
社会的孤立は健康寿命や認知症リスクとも関係すると報告されています。
今回の研究が優れている理由
これまでにも
「歯が少ない人ほど健康状態が悪い」
という研究は多数ありました。
しかし、
「もともと老化していたから歯を失っただけでは?」
という疑問が残っていました。
今回の研究では、
研究開始時点での生物学的年齢を考慮した上で追跡調査
を行っています。
そのため、
歯の喪失がその後の老化に影響する可能性をより強く示した研究として評価されています。
私たちにできること
もちろん、歯を失ったからといって必ず老化が早まるわけではありません。
しかし、
- むし歯予防
- 歯周病予防
- 定期的な歯科受診
- 毎日のセルフケア
は、口だけでなく全身の健康を守るためにも重要です。
また、歯を失ってしまった場合でも、
- 入れ歯
- ブリッジ
- インプラント
などで噛む機能を回復し、適切に管理することが健康維持につながる可能性があります。
まとめ
今回の東京科学大学の研究は、歯をすべて失うことが全身の老化を加速させる可能性を示した重要な研究です。
2年間という追跡調査の結果、無歯顎(歯をすべて失った状態)の人では、生物学的年齢が平均0.82歳高くなることが明らかになりました。
この研究は、「歯を守ること」が単に食事や見た目のためだけではなく、健康寿命を延ばし、体全体の老化を抑えるためにも重要であることを示しています。
人生100年時代を元気に過ごすためには、全身の健康管理と同じように、お口の健康を守ることも欠かせません。
毎日の丁寧な歯磨き、歯科医院での定期検診、そして歯周病の早期発見・早期治療そして、早期予防を続けることが、将来の健康への大切な投資になるといえるでしょう。
なってからでは、手遅れです。
ひどくなる前に歯医者に行きましょう。
参考文献
- Matsuyama Y, Kiuchi S, Aida J, et al. Complete tooth loss and subsequent biological ageing among older adults: findings from the English Longitudinal Study of Ageing. Journal of Clinical Periodontology. Published online February 9, 2026.
- English Longitudinal Study of Ageing (ELSA)
- 東京科学大学 プレスリリース(2026年)
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