キシリトールは危険?心筋梗塞や脳卒中との関係を解説 キシリトールの安全性
目次
1. はじめに
2. キシリトールとは?(基本の役割と虫歯予防効果)
3. 2026年に発表された「キシリトールと心血管疾患」の研究とは?
- 血中キシリトールが高い人ほど心血管イベントが多かった?
- 「57%リスク増加」の正しい受け止め方
4. 「食べた量」と「血中濃度」はイコールではない
5. なぜキシリトールが心血管疾患と関係する可能性があるのか?
6. キシリトールガムや歯磨き粉は使わないほうがいい?
- ガムなどの食品について
- 歯磨き粉・洗口剤について
7. 「キシリトール=悪いもの」と決めつけないために
8. 歯科医師が伝える「本当に大切な虫歯予防」5つの基本
9. まとめ
10. よくある質問(Q&A)
参考情報
栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。
「キシリトールは虫歯予防に良い」と聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
キシリトールは、ガムやタブレット、食品だけでなく、歯磨き粉などの口腔ケア製品にも使用されている甘味料です。
砂糖と比較して虫歯の原因になりにくいことから、歯科医院でも使用される虫歯予防の一つとして知られています。
ところが、2026年8月に開催されたEuropean Society of Cardiology(ESC)Congress 2026で、キシリトールと心筋梗塞・脳卒中などの関連を調べた新しい研究が発表されました。
この研究では、血中キシリトール濃度が高い人ほど、心筋梗塞や脳卒中、死亡などを含む主要心血管イベント(MACE)のリスクが高かったと報告されています。
では、キシリトール入りのガムや歯磨き粉を使うと、心筋梗塞や脳卒中の危険が高くなるのでしょうか?
結論からいうと、現時点では「キシリトールを食べると心筋梗塞や脳卒中になる」とは言えません。
今回の研究は非常に興味深いものですが、観察研究であり、キシリトールが心血管疾患を直接引き起こすことを証明したものではありません。
この記事では、歯科医師の立場から、今回の研究結果とキシリトールの虫歯予防効果、そして私たちはキシリトールをどのように考えればよいのかをわかりやすく解説します。
キシリトールとは?
まず、キシリトールについて簡単に説明します。
キシリトールは、**糖アルコール(ポリオール)**の一種です。
果物や野菜などにもごく少量含まれており、私たちの体内でも糖代謝の過程で作られています。
砂糖と同程度の甘さがありますが、砂糖とは異なる特徴を持っています。
特に歯科領域では、
- 虫歯の原因となる酸を作りにくい
- 砂糖の代わりに使用できる
- ガムなどに利用しやすい
- 唾液の分泌を促すことが期待できる
といった特徴から、虫歯予防を目的とした食品や口腔ケア製品に利用されています。
ただし、「キシリトールを摂れば虫歯にならない」という意味ではありません。
歯磨き、フロス、食生活、フッ化物の利用、定期的な歯科検診などを組み合わせることが、虫歯予防には重要です。
2026年に発表されたキシリトールと心血管疾患の研究とは?
今回注目されたのは、2026年8月にESC Congress 2026で発表された研究です。
研究グループは、カナダのCanadian Longitudinal Study on Aging(CLSA)と、欧州のEPIC-Norfolk研究という2つの大規模な前向き観察コホートを利用しました。
合計すると、17,710人が解析対象となっています。
研究では、血液中のキシリトール濃度を調べ、その濃度によって参加者をグループ分けしました。
そして、その後に発生した、
MACE(Major Adverse Cardiovascular Events:主要心血管イベント)
との関係を調べています。
今回のMACEには、
- 心筋梗塞
- 脳卒中
- 死亡
が含まれています。
血中キシリトールが高い人ほど心血管イベントが多かった
研究で特に注目されたのは、血中キシリトール濃度が最も高いグループでした。
カナダのCLSAコホートでは、血中キシリトール濃度が最も高いグループは、最も低いグループと比較して、約6年間の追跡期間中にMACEのリスクが57%高かったと報告されています。
また、EPIC-Norfolkでは約30年間の追跡において、血中キシリトール濃度が最も高いグループでMACEリスクが18%高かったとされています。
さらに、血中キシリトール濃度が高くなるにつれてMACEが増えるという、段階的な関連も示唆されました。
年齢、性別、喫煙、糖尿病、高血圧、脂質など、従来から知られている心血管リスク因子を考慮して解析しても、この関連が確認されたとされています。
「57%リスク増加」と聞くと、とても怖く感じますが……
ここで非常に重要なポイントがあります。
「キシリトールで心筋梗塞が57%増える」と考えてはいけません。
今回の研究が示したのは、
「血中キシリトール濃度が高い人では、低い人と比較してMACEが多かった」という関連です。
これは、
「キシリトールを摂取したことが原因で心筋梗塞が増えた」ということとは違います。
今回の研究は前向き観察研究です。
観察研究では、さまざまな生活習慣や体質、代謝状態などが結果に影響する可能性があります。
つまり、キシリトールそのものが原因なのか、それとも血中キシリトール濃度が高くなる別の背景が関係しているのかについては、まだ完全にはわかっていません。
そのため、今回の研究結果だけをもって「キシリトールは危険だからすぐに使用をやめるべき」と結論づけることはできません。
キシリトールは「食べた量」と「血中濃度」を同じように考えてはいけない
今回の研究を理解するうえで、もう一つ重要なのが血中キシリトール濃度です。
キシリトールは食品から摂取されるだけではありません。
私たちの体内でも、糖代謝に関連する経路の中で少量作られています。
そのため、
海外のキシリトール製品は、日本のものに比べて甘味料中のキシリトール比率が「100%」と非常に高いものが多く存在します。
なので、血中キシリトール濃度が高い=キシリトール入りガムをたくさん食べた。
とは必ずしも言えません。
ここは今回の研究を考えるうえで非常に重要です。
研究で測定されたのは「血液中のキシリトール濃度」であり、普段どの程度キシリトール食品を食べているかだけを調べた研究ではありません。
したがって、キシリトールを1日にどれくらい食べたら心筋梗塞のリスクが何%上がる、といったことは今回の研究からは判断できません。
なぜキシリトールが心血管疾患と関係する可能性があるの?
今回の研究が注目されている理由の一つに、以前から行われていた研究があります。
2024年にEuropean Heart Journalに掲載された研究では、血中キシリトール濃度と心血管イベントとの関連が報告されました。
さらに研究者らは、キシリトールが血小板の反応性を高め、血栓形成に関係する可能性について、ヒトの血液、血小板、動物モデルなどを用いて検討しています。
血小板は、血管が傷ついたときなどに集まって血液を固める働きを持つ細胞です。
血小板が過剰に活性化すると、血栓形成につながる可能性があります。
心筋梗塞や一部の脳梗塞では、血栓が血管を塞ぐことが病気の発症に関係しています。
そのため、
キシリトール
↓
血小板の反応性への影響
↓
血栓形成への影響
↓
心血管イベントとの関連
という可能性が研究されています。
ただし、このメカニズムについても、今後さらに研究を重ねる必要があります。
では、キシリトールガムは食べないほうがいい?
現時点で、今回の研究だけを理由に、すべての人がキシリトールガムをやめなければならないとは考えられません。
特に歯科領域では、キシリトールには虫歯予防に役立つ特徴があります。
一方で、
「キシリトールならいくら摂っても安全」と考えるのも適切ではありません。
キシリトールに限らず、食品や甘味料は「適量」を意識することが大切です。
また、今回の研究はキシリトールの長期的な心血管安全性について新たな疑問を投げかけるものです。
今後、より詳細な研究が行われることで、どの程度の摂取量が問題になるのか、どのような人で影響が大きいのかなどが明らかになることが期待されます。
歯磨き粉や洗口剤に入っているキシリトールは?
患者さんから、
「歯磨き粉にキシリトールが入っていますが大丈夫ですか?」
と心配されることもあるかもしれません。
ここでも、摂取量と使用方法を区別することが重要です。
キシリトールは、ガムや食品だけでなく口腔ケア製品にも使用されています。
特に歯磨き粉や洗口剤では、製品を口の中で使用した後に吐き出すものもあります。
2025年のEuropean Heart Journalの論考では、口腔ケア製品を「すすいで吐き出す」形で使用する場合、摂取量が少ないため、心血管リスクの観点では安全である可能性があるという見解も示されています。
ただし、これは「完全に安全であることが証明された」という意味ではありません。
今後の研究結果を見ながら判断していく必要があります。
キシリトール=悪いもの、ではありません
今回のニュースを見て、
「今までキシリトールは虫歯に良いと言われていたのに、実は危険だったの?」
と疑問に感じた方もいるでしょう。
しかし、医学や歯科医学では、新しい研究によってこれまでの知識が更新されることがあります。
重要なのは、
「良い」「悪い」と単純に決めつけるのではなく、どのような研究で、何がわかったのかを正しく理解することです。
キシリトールについても、
- 虫歯予防に役立つ特徴がある
- 食品や口腔ケア製品に広く利用されている
- 血中キシリトール濃度と心血管イベントとの関連が報告された
- 血小板や血栓形成への影響を示す研究もある
- しかし、キシリトール摂取が心筋梗塞や脳卒中を直接引き起こすことが証明されたわけではない
- 長期的な安全性については、今後さらなる研究が必要
というように整理することが大切です。
虫歯予防で本当に大切なこと
キシリトールはあくまで虫歯予防を助ける選択肢の一つです。
虫歯を予防するためには、キシリトールだけに頼るのではなく、
① 毎日の歯磨き
歯垢(プラーク)を物理的に取り除くことが基本です。
② フッ化物の利用
フッ化物は、歯の再石灰化を促し、虫歯になりにくい歯を作るために重要です。
③ 間食・砂糖の摂り方に注意する
砂糖を含む食品や飲料をダラダラ食べたり飲んだりする習慣は、虫歯のリスクを高めます。
④ デンタルフロスや歯間ブラシ
歯ブラシだけでは取りにくい歯と歯の間のプラークを清掃します。
⑤ 定期的な歯科検診
自分では気づきにくい初期虫歯や歯周病を早期に発見することができます。
このような基本的なケアを継続することが、健康な歯を守るためには何より大切です。
まとめ
キシリトールについて今わかっていること
2026年8月のESC Congress 2026では、17,710人を対象とした大規模な前向き観察研究から、血中キシリトール濃度が高い人ほど、心筋梗塞・脳卒中・死亡を含む主要心血管イベント(MACE)が多かったことが報告されました。
一方で、この研究は観察研究であり、
「キシリトールを食べると心筋梗塞や脳卒中になる」と証明したものではありません。
また、血中キシリトール濃度が高いことと、食品からキシリトールを多く摂取していることは必ずしも同じではありません。
キシリトールは、これまで歯科領域で虫歯予防に利用されてきた成分です。
今回の研究によって長期的な心血管安全性について新たな疑問が生じたことは事実ですが、現時点でキシリトールを一律に避けるべきだとする根拠にはなっていません。
今後、キシリトールの摂取量、血中濃度、心血管疾患との因果関係などについて、さらに研究が進むことが期待されます。
やまのうち歯科医院では、単に「虫歯を治す」だけではなく、患者さんがご自身の歯をできるだけ長く使えるように、予防とメンテナンスを大切にしています。
キシリトールを含む食品や口腔ケア製品について気になることがありましたら、自己判断で極端に制限するのではなく、現在の使用状況やお口の状態も含めて歯科医師・歯科衛生士にご相談ください。
「治すから、守るへ。」
これからもやまのうち歯科医院は、最新の研究にも目を向けながら、患者さんにわかりやすく正確な情報をお伝えしていきます。
Q&A
Q. キシリトールは心筋梗塞の原因になりますか?
A. 現時点では、キシリトールが心筋梗塞を直接引き起こすことは証明されていません。2026年の研究では、血中キシリトール濃度が高い人ほど心筋梗塞・脳卒中・死亡などの主要心血管イベントが多いという関連が報告されていますが、観察研究であるため因果関係は確定していません。
海外では、代用糖としてキシリトールの飲食物が多く売られていますが、日本ではガムやチョコなどの一部の製品でしか使用されていないので、気にする必要は少ないと考えられます。
Q. キシリトールガムは食べないほうがいいですか?
A. 今回の研究だけを理由に、すべての人がキシリトールガムを中止すべきとはいえません。キシリトールには虫歯予防に役立つ特徴があります。
一方で、過剰摂取を避け、バランスのよい食生活を心がけることが大切です。
Q. 歯磨き粉に入っているキシリトールは大丈夫ですか?
A. 歯磨き粉など、使用後に吐き出す口腔ケア製品では、食品として大量に摂取する場合とは状況が異なります。
現時点で一律に使用を中止する根拠はありませんが、今後の研究にも注目する必要があります。
Q. キシリトールは虫歯予防に効果がありますか?
A. キシリトールは砂糖とは異なり、虫歯の原因となる酸を作りにくい糖アルコールです。ただし、キシリトールだけで虫歯を完全に防ぐことはできません。毎日の歯磨き、フッ化物の利用、食生活、定期的な歯科検診を組み合わせることが重要です。
参考情報
今回の2026年研究については、ESC(欧州心臓病学会)の公式発表で17,710人を対象とした研究概要が公開されています。
また、キシリトールと血小板・血栓形成、心血管イベントとの関連については、2024年にEuropean Heart Journalに掲載された研究があります。
なお、2026年の研究は学会発表段階の情報であり、今後査読済み論文として詳細が公表されれば、結果の解釈がさらに明確になる可能性があります。したがって、現段階では「キシリトールは危険」と断定せず、「心血管安全性について新たな疑問が提起された」と理解するのが適切です。
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