2024年08月26日

レーザー治療による歯周病治療

栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。

今回は、レーザー治療による歯周病治療について書いていきます。
少し専門的な内容になりますのでご了承ください。

1)歯石除去効果と歯石下の歯質への影響
歯石は多孔性の石灰化組織であり,その構成成分中だけでなくその構造上の小腔中にも水分を含んでいるため,in vitro において歯の硬組織より低出力の Er:YAG レーザー照射(先端エネルギー密度 11-19J/cm2
/pulse)で容易に蒸散することができます。
注水下の照射では,捻撥音を発しながら蒸散し,歯石の蒸散面には,炭化や融解などの熱傷害は認められず,力学的に破砕されたと推測される粗造な面が認められます。
In vitro での抜去歯上での歯石除去効率は先端出力 40mJ/pulse(エネルギー密14.1J/cm2/pulse),繰り返しパルス数 10pps(Hz)で,超音波スケーラーと同程度であり,パルス数を 20‒30pps に上げることにより向上し,超音波スケーラーより効率は高くなります。
また,近年開発された Er,Cr:YSGG レーザーも Er:YAG レーザーに近い 2.78μm の波長を有しており,歯石除去についてもほぼ Er:YAG レーザーと同様の効果があることが報告されています。
Er:YAG レーザーにより歯石の選択的除去が可能であるという報告も一部にはありますが,基本的に歯石の完全な選択的蒸散は不可能であり,従って,エナメル質上の歯肉縁上歯石の場合には,歯石直下のエナメル質の蒸散が避けられないため禁忌になります。
一方,歯根面上の歯肉縁下歯石の場合には,歯石を除去するだけでなく,さらに歯石下の汚染されたセメント質を除去するルートプレーニングも必要であるため,レーザーによって歯石下のセメント質が一層蒸散されるのは許容されます。
従って,根面上の縁下歯石が適応症となります。
ただし,歯石除去において根面を過剰に蒸散しないように,コンタクトチップを根面に平行あるいはわずかに斜めに保持するような照射法に配慮する必要があります。
照射法と出力をコントロールすることによりセメント質の保存は可能で,in vivoにおいては,非外科的治療において SRP が完全にセメント質を除去してしまうのに対して Er:YAG レーザーではセメント質を保存できるとの報告や,あるいは従来法と損失量は同程度という報告もあります。
一方で,過剰に損失するという報告もあり,これらは根面へのチップの適合の状態や出力,照射手技によって異なるものと思われます。
2)照射時の発熱と根面および歯髄への影響について
発熱に関しては,注水の併用により,根面や歯髄側への影響はわずかであり,根面の炭化のような熱傷害は生じないが,レーザー照射により一層の歯質の蒸散を生じた面は微細構造を示すため,乾燥させると白色を呈します。
また,蒸散面の微細構造を示す最表層は顕著な有機成分の減少が生じており,その下層に限局した熱変性と推測される数ミクロンの変化層が生じます。
ただし,注水下の照射では,CO2レーザー照射で認められるような炭化に伴う毒性物質の産生43)はほとんど認められない。
また,Er:YAG レーザーは非常に低い出力で殺菌作用を生じて,さらに照射根面にはエンドトキシンの分解・除去効果が認められるなど,レーザー処置面にはスメアー層がなく,殺菌効果および無毒化が期待され,これらは従来の機械的手段に優る点で,歯周ポケットの創傷治癒に有利に働く可能性があります。
歯髄への影響については,もともと歯石除去よりもはるかに高出力で行われる窩洞形成において,歯髄への影響は従来の高速切削と同程度と報告されており,根面の歯石除去の際の影響はレーザーの照射方向も考えると極めて少ないと推測される。実際に動物実験において,フラップ手術時に行われた根面のデブライドメント後の歯髄の組織学的変化は認められていません。
3)レーザー照射根面の細胞・組織の付着への影響
Er:YAG レーザー照射面に対する歯周組織の付着については,キュレットによる SRP とレーザーによる
デブライドメントを歯周病罹患根面にて比較した invitro の研究があり,レーザー治療の方が有意に高い
細胞付着を示すことが複数の論文で報告されています。
一方で,健全セメント質を用いた研究では,微細構造を呈する照射セメント質への細胞の付着は低下するが,さらにテトラサイクリン塩酸塩や EDTAなどの根面処理によって,付着が回復向上することが示されています。
In vivo においては,非外科的ポケット治療における創傷治癒を調べた Schwarz らの動物研究では,Er:
YAG レーザーによるデブライドメント後の根面には明らかに重篤な熱傷害はなく,根面の蒸散も多くはセメント質内で,SRP と同等以上の新生セメント質形成が認められています。
外科的治療において Er:YAGレーザーの根面および骨欠損部のデブライドメントを行った Mizutani らの動物研究においては,レーザー照射根面は歯周組織の付着を妨げることなく,一部に変成層の残存も認められたが,全体的に変性層は吸収されており,SRP と同程度に新生セメント質の形成を伴う結合織性付着が認められています。
後述する臨床研究における良好な成績やその長期安定性から考えると,臨床的には,レーザー照射根面が組織付着を阻害することはなく,得られた付着は安定しているものと推測されます。
しかしながら,レーザー照射根面に対する歯周組織付着については,エビデンスがまだ不十分であり,今後 in vivo でのさらに詳細な検証が必要です。
現時点では,臨床応用において,レーザー照射根面の再処理を行うことは必ずしも必要ではないと考えられるが,外科手術時など明視下での処置では,化学的再処理を行うことは術後の創傷治癒において効果的に働くと推測されます。

根面のデブライドメントへの Er:YAGレーザーの応用に関する臨床研究について
1)非外科的歯周ポケット治療における応用
渡辺らは,35 名の歯周炎患者の歯肉縁下歯石に対して,平 均 出 力 約 40mJ/pulse (算 出 し た 先 端 出力:32mJ/pulse, 同エネルギー密度: 11.3J/cm2 /pulse),10pps,注水下で,直径 600µm のコンタクトチップを用いて Er:YAG レーザーによる歯石除去を行い,レーザー治療は有効で,術中にほとんど不快感もなく,処置後の問題も認められず安全であり,術後に歯周ポケットの改善が認められたことを初めて報告しました。
Schwarz らは,20 名の歯周炎患者において,Er:YAG レーザーを用いて非外科的ポケット治療を行い,スプリットマウスデザインのランダム化比較試験(Randomized controlled trial:RCT)の結果を報告しています。
浸潤麻酔下で従来のキュレットによる SRP とEr:YAG レーザー処置を行い,レーザー処置群では,チ ゼ ル 型 の コ ン タ ク ト チ ッ プ を 用 い て,出 力160mJ/pulse(算出した先端エネルギー密度 14.5 および 18.8J/cm2/pulse),10pps,注水下で,歯冠側から根尖側へ向かって根面に 15 から 20 度の角度でデブライドメントを行っています。
結果として,レーザー群の方が処置時間は短く,6 か月後の診査において SRP 群とポケット減少量は同等で,プロービング時の出血(BOP)およびアタッチメントレベルはレーザー群のほうが有意に高い改善を示しており,その結果は2年後も維持されたとも報告しています。
さらに,彼らの別の報告ではレーザー治療後のキュレットによる追加のルートプレーニング処置は付加的効果がなかったとしています。

超音波スケーラーとの比較では,Sculean らは,Er:YAG レーザーによる治療は術後 6 か月において超音波スケーラーと同様な臨床的改善を示したことを報告し,Crespi らは,術後 1,2 年において Er:YAG レーザーは超音波スケーラーより有意に高い臨床的改善を示したと報告しています。
また,Tomasi らはメインテナンス治療での応用において,Er:YAG レーザー治療は,1 か月後では超音波より有意に高い臨床的改善を示しましたが,4 か月後には臨床的改善および細菌レベルは同程度であり,治療時の不快感は Er:YAGレーザーの方が少なかったことを報告しています。
一方で,超音波スケーリングの方が,Er:YAG レーザー治療より細菌の減少度が大きく,レーザー治療より超音波治療の方が患者に好まれたとの報告があります。
また,Er:YAG レーザーによるポケット内での盲目的な歯石除去は従来のキュレット治療に比べて除去率が劣るとの報告40)や,Er:YAG レーザーは従来の機械的手段の補助として用いられるであろうという報告64)などがあり,その評価はまだ一定していない。非外科治療におけるレーザーの応用に関する総説はいくつか出されているが,Cobb はアメリカ歯周病学会から依頼された 2006 年のレビューのなかで,レーザーが従来の方法より優れているという十分なエビデンスはなく,とくに,最近のエビデンスでは,Nd:YAG と Er:YAG レーザーがポケット深さと縁下の細菌の減少において SRP と同等であると示唆されているが,アタッチメントレベルの点で従来法を超えるようなエビデンスは非常に少ないと報告した5)。しかし,この論文に対しては採用した論文数について,また Er:YAG レーザーについて正しく評論していないという反論が出されています。
また,Schwarz らの 2008 年のシステマティック・レビューでは,Er:YAG レーザーは慢性歯周炎の治療において最も適した特性を有すると思われるが,その安全性と効果は従来の機械的治療の範囲内のものと考えられるが,充分なメタアナリシスを行えるまでにはなっていないと報告している67)。このように,Er:YAG レーザー単独療法で SRP より有意に高いあるいは同等以上の長期的な臨床的改善効果を示すことが複数の論文で示されているが,まだ十分なコンセンサスを得られるまでには至っていません。
2)歯周外科治療における応用について
一方,外科治療における応用では,明視下において歯石の沈着の確認とコンタクトチップの適合が容易であることから,レーザー照射のコントロールがしやすく,結果的に根面の蒸散も少なくなっています。
従って,明視下での Er:YAG レーザーによる根面のデブライドメントは非常に容易で確実性が高くなります。
さらに,フラップ手術においては,Er:YAG レーザーが軟組織の蒸散にも優れ,骨面への応用も行われていることから,同時に骨欠損部の不良肉芽組織掻爬が主要な目的となっています。
Mizutani らの動物実験では,フラップ手術において Er:YAG レーザーによる根面のデブライドメントとともに肉芽組織の除去が安全で効果的に達成できることが示され,さらには新生骨形成を促進する可能性が示唆されています。
臨床研究では,Sculean らはフラップ手術においてEr:YAG レーザーによる骨欠損および根面のデブライ
ドメントと,キュレットと超音波器具による治療を比較し,臨床的改善度に有意差はありませんが,Er:YAGレーザーは歯周外科治療に適した代替手段になるであろうと報告しています。
Gaspirc らは Er:YAG レーザーを骨欠損および根面のデブライドメントに応用し,レーザーは従来の機械的手段によるフラップ手術に比べて術後 3 年まで,有意に高い臨床的改善度,すなわち有意に大きいポケット深さの減少とアタッッチメントゲインの増加を示したことを報告しています。
また,再生治療薬のエムドゲインを応用した再生療法において,Er:YAG レーザーによるデブライドメント (根面のEDTA 処理なし)の結果は,術後 6 か月において機械的手段による通法の治療成績と同等であったと報告されています。
このように歯周外科治療への応用において,とくに根面のデブライドメントは明視下で容易に達成でき,術後の創傷治癒は従来の機械的治療と同等あるいはそれ以上であることが示されているが,今後,多施設において多数の被験者を対象とする研究や,治療効果に対する多角的な分析評価など,より多くのエビデンスが必要とのべています。

今後の課題と展望
非外科治療におけるポケット内の盲目下のレーザー照射では,in vitro とは異なり歯石の探知と除石およ
びその確認に課題があり,より確実な照射条件や手技の確立およびコンタクトチップの改良が必要であります。
一方で,斬新なアイデアとして,半導体レーザーを併用し歯石の蛍光放射を検出することにより,歯石の存在を判定しながら,歯石が存在する場合のみ Er:YAGレーザーが放射されるというフィードバックシステムを有するレーザー装置も開発されているが,その効果はまだ十分に検証されていません。
また,レーザー照射根面と歯周組織の付着についても,今後,さらに詳細な組織学的検索が必要になります。
従来の機械的処置だけでは,複雑な歯周ポケット内のデブライドメントや除菌には限界があると考えられています。
レーザーを歯周ポケットに用いた場合,レーザーは根面だけでなく,ポケット内壁や骨面に対してもよ
り確実な殺菌無毒化および感染組織の除去効果が期待され,さらに同時に周囲へ拡散する低出力レベルのレーザーによる効果(low level laser therapy: LLLT)は周囲細胞を刺激し(biostimulation, photo-bio-modulation: PBM),組織の修復・再生能を高める可能性があります。
そのため,レーザーは単独あるいは従来の機械的治療に補助的に応用することにより,歯周ポケット全体に対してより包括的な治療を達成し,炎症の軽減や組織修復・再生に有利に作用する可能性があり,中等度から重度の歯周ポケットの非外科的および外科的治療においては,今後有効な手段の一つになるであろうと考えられます。
また,新しいレーザーとして周波数 2 倍のアレキサンドライトレーザー(波長 337nm)は,実験室レベルにおいて歯石や着色の完全な選択的除去が可能であり,将来,光エネルギーを用いた歯の沈着物のより容易で効果的な除去が可能になると思われます。

臨床応用上の注意および安全対策
レーザーは新しい治療器具として有用であるが,従来の機械的器具とは全く異なり非接触でも作用を及ぼすため,誤照射を起こす可能性があり,使用には特別な注意が必要になります。
基本的に眼への誤照射に最も注意しなければなりません。
そのため,レーザー使用時には,患者,術者およびアシスタントの全員が,それぞれの波長に適した十分な OD 値(Optical density:光学濃度)を有する防護メガネを着用することが必須であり,デンタルミラーや金属冠からの反射光にも注意する必要があります。

Er:YAG レーザーの場合には,表面吸収型のレーザーであるため20),基本的に照射部深部へのエネル
ギーの深達が少なく,予期せぬ熱傷害の危険が非常に少ないため臨床における安全性は高いが,それでも骨膜などへの熱影響には十分注意する必要がある。硬組織の蒸散においては,発熱を抑制するために,注水を必ず併用する必要がある。ただし,歯周ポケットの使用においては,冷却用のエアースプレーによりごくまれに皮下気腫を発生することがあるので,ポケット内照射を行う場合には,極力エアーを少なくするか,あるいはオフにするなどの配慮が必要である。外科手術での使用時には注水は滅菌生理食塩水に切り替える必要がある。
また,Er:YAG レーザーは歯質も蒸散するので,エナメル質上の歯石除去は禁忌であり,歯根面上の歯石
の除去に用いる場合には,コンタクトチップを根面に対して常に平行あるいはわずかに傾斜させる程度に保持し,定点照射をすることなく常にチップを上下あるいは左右に振る動作を用い,不適切な照射で過剰な損傷を起こさないよう注意する。さらに,ポケット内照射では,Er:YAG レーザーの場合にはその爆発的蒸散
効果に伴いポケット内からの血液の飛散が起こりやすいため,フェイスガードの着用および的確なバキューム操作が必要で,さらに口腔外バキュームの併用が望ましい。
また,基本的事項として,コンタクトチップおよびハンドピースカバーのオートクレーブによる滅菌や,装置の安全管理責任者の設置および定期的なメインテナンスが不可欠になります。
レーザーの臨床使用においては,使用目的,使用方法および安全対策,さらに作用機序なども含めた知識と技術の習得が必須です。
口腔内は解剖学的に複雑で,あらゆる組織がごく狭い範囲に近接しいるため,照射部位により適切な照射方法,出力の設定が求められます。
そのため,日本レーザー歯学会では,認定医制度を設置し,定期的に歯科用レーザーの安全に関する講習会を実施し,その安全で効果的な使用について啓蒙しています。

おわりに
歯周ポケット内での歯周病罹患根面の処置は,従来の機械的処置では到達度や除菌効果には限界があり,治療成績は技術に大きく左右され,時間のかかる処置です。
新たな手段のひとつとして,レーザーの応用が期待され,Er:YAG レーザーによる歯石除去の効果と安全性,有効性については多くのエビデンスが得られ,非外科的および外科的治療において徐々に臨床応用されています。
しかしながら,まだ,非外科治療において,レーザー単独療法におけるポケット内での歯石除去の達成度や治療後の長期経過,機械的治療との併用療法の効果に関して,従来の治療法との比較研究が少なく,レーザー治療の真の臨床有用性は十分に明確にされていません。
今後,さらに多くの RCT による臨床研究やそれに基づくシステマティック・レビューおよびメタアナリシスが必要になります。
また,実際の臨床でのレーザーの使用においては,従来の機械的治療法をまず十分に習得した上で,レーザー光の有する硬組織・軟組織に対する効果,および科学的研究結果に基づくエビデンスを正しく理解し,正しい技術を持って常に慎重な態度で応用する必要があります。

以上がレーザー治療を歯科で使用する際のエビデンスですが、まだ十分集まったと言えません。
治療内容によっては、有用なものもありますが何でもかんでも使用すればいいというものではないことがわかりますよね。
当院で使用するとなると、歯周外科などの再生治療を含めた外科治療を行う際には有用であると思います。
また、使い方を間違えると為害性もあるので気を付けて使用しましょうとも言われています。
皆さんも、新しいものに飛びつくのではなくしっかりとした知識を得て利用しましょう。

やまのうち歯科医院

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