コラム
2023年05月29日

寝るときに入れ歯は入れた方がいいのでしょうか? パート2

栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。

入れ歯の方は、寝るときに入れ歯を外す方がいいのか気になると思います。

今回は、就寝時に入れ歯を入れるデメリットについて文献がありましたので記載しました。
これは必ずそうなるわけではありませんが、気を付けるべき例だと思います。
以下の状態を避ける方法として、一番下にリンクを張ったので見てください。

肺炎は高齢者にとって高い罹患率で死亡リスクのある疾患です。
The 2010 Global Burden of Disease Studyでは、肺炎を含む下気道感染症は死因の4位であり、生命喪失年数の原因として第2番目に多いと報告しています。
日本では2011年の死因の第3位であり、90歳台では2位でした。
誤嚥は、高齢者において肺炎の最も重要な病因メカニズムであり、劣悪な口腔環境は、予知因子としてますます認識されています。
実際、ランダム化介入試験において、プロフェッショナルな口腔ケアは介護施設入所のフレイル高齢者の肺炎の負担を低下させると報告されています。
行動変容による口腔衛生状態の改善が肺炎リスクを低下させるかどうかはまだよくわかっていません。
超高齢社会への急速な移行と劣悪な口腔内により世界的な負担が増加する中、肺炎予防のための動機付けと自己管理可能な口腔衛生促進プログラムの開発は、公衆衛生上の優先事項となっています。
リスクファクターとそれを改善する事で肺炎予防に与える具体的な利点を明確にするために、我々は地方在住の超高齢者において、口腔健康に関する行いと、肺炎発症との関連性を前向きに調査しました。

被験者

The Tokyo Oldest Old Survey on Total Health (TOOTH)は老年科医、歯科医師、心理士、疫学者などの多職種により構成された前向き観察研究です。
研究デザインの詳細、リクルート、実施過程などは以前の論文で記載しました。
2008年3月~2009年11月に、東京在住の85歳以上の高齢者542名を医科的、歯科的診査を行うためにランダムに選択しました。彼らの中で、12名は口腔健康アセスメントの不足、6名は肺炎発生情報の欠如のため除外しました。
そのため、524名(男性228名、女性296名、平均年齢87.8±2.2歳、85~102歳)を解析しました。

口腔健康アセスメント

対面で、歯科医により口腔関連QOL(GOHAI)、15食品を食べる能力、口腔の健康についての行為に関する質問含むインタビューと、歯科診査が行われました。
行為のリスクファクターを確認するために、13個の口腔関連、衛生関連の質問を開発しました。
4つの質問は、Evrenらの研究から改良した義歯装着頻度、義歯清掃頻度、義歯洗浄剤の使用、夜間の装着についての質問です。
453名の義歯装着者のみに質問しました。嚥下困難感はGOHAIの1つの質問項目「気持ちよく飲み込むことができる頻度は?」で採取しました。
インタビューの後、歯科医師にお寄り口腔内診査を行いました。
日本学校歯科医会の判定基準に基づき、歯垢の存在、歯肉の炎症を判定しました。デンチャープラークはAmbjørnsen Denture Plaque Indexの改良版を使用して判定しました。
義歯上に存在するプラークを
0:プラーク無し、1:器具で除去出来ることで義歯表面に付着しているのがわかる、2:中等度デンチャープラークが集積、3:プラークがかなりの量、の0~3に分類しました。
268名の被験者について、2009年4月~11月の間に診査を行いました。
舌背から滅菌綿棒を5回こすって微生物サンプルを採取しました。
Wangら(2006)の手順に従い、検体を直ちにCandida検出用の特殊培地(CHROMagar Candida)に植菌しました。

医科的なアセスメント

歯科の診査と同時に、トレーニングされた老年科医によりインタビュー、診査が行われました。
全身状態、投薬状況、Barthel indecによる身体機能などが採取されました。
認知機能はMMSEにより評価しました。非絶食での血液サンプルをベースライン時に採取し、アルブミン、クレアチニン、CRPを計測しました。
IL-6とTNF-αをELISAを用いて計測しました。

アウトカム

アウトカムは深刻な肺炎イベントとし、肺炎で初めて入院、または死亡と定義しました。がん、循環器疾患、肺炎、転倒と骨折、その他の理由での入院と死亡について、12か月毎にメールか電話でフォローされました。36か月後にまだ研究に参加出来ている場合、ベースライン時と同じ診査を行いました。また、観察期間に入院しなかったか確認しました。

統計解析

ベースラインの特性は、平均値とSD、%で表現しました。歪んだ分布の連続変数はメディアンと四分位数範囲と対数で表現しました。夜間の義歯装着については、いつも(毎晩)、通常(5~6日/週)で分類しました。ベースライン時の連続変数の差の解析にはMann-Whitney U検定を用いました。カテゴリー変数の解析にはχ2検定を用いました。縦断解析では、Kaplan-Meierの生存曲線をプロットしました。予後的に有意な結果は、log-rank P < 0.05と定義しました。単変量と多変量のCox比例ハザードモデルを使用し、肺炎イベントのリスクを調査しました。はじめに、肺炎に関連する事が知られている生物学的、行動的因子(性別、年齢、教育、喫煙歴、BMI<18.5、脳卒中、呼吸器疾患、DM、慢性腎疾患、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、スタチンの使用、血清アルブミン値、CRP、IL-6)を単変量モデルでハザード比を計算します。P<0.1で実質的関連があった項目を多変量モデルに設定しました。CRPとIL-6は強い相関があるため、モデルに分けて設定されました。肺炎以外の原因による死亡は打ち切りとしました。全ての解析で有意水準は5%としました。

結果

3年間のフォローの間に48件の肺炎イベント(20死亡、28入院)が確認されました。年換算すると3.1%となります。70名が別の要因でなくなりました(がん24名、循環器疾患28名、他15名、不明3名)。4名がフォローアップの調査を拒否し、15名については最後のコンタクトができませんでした。ベースライン時の特性を表1に示します。肺炎を発症した人は、嚥下困難感を感じている、義歯を睡眠中も装着している、ADLを含む機能障害、認知機能低下、低BMI、呼吸器疾患または脳卒中歴、低アルブミン値、高CRP、高IL-6などの傾向が認められました。残存歯数、Eichner分類、投薬状況は肺炎との相関は認められませんでした。

夜間の義歯装着は、肺炎に関連する唯一の行動的要因だったので、我々はKaplan-Meier生存曲線をプロットしました(図)。夜間の義歯装着は肺炎リスクの上昇と有意に相関していました。

多変量Coxハザードモデルでは、嚥下困難感と夜間の義歯装着は、それぞれ肺炎発症リスクの約2.3倍上昇と相関しました。結果の堅牢性を検証するため、多変量解析モデルからADL障害を除外した感度解析を行いました。夜間義歯装着と肺炎発症の間には一貫した関連性(HR 2.35 95%CI:1.23-4.51)が認められました。肺炎以外の死亡理由を除外した他の感度解析では、多変量モデルにおいて、夜間義歯装着と肺炎発症の間には強い相関(HR 2.37 95%CI 1.21–4.65; P = 0.012)が認められました。残存歯数、Eicher分類、義歯洗浄剤の使用は、肺炎発症と有意な相関は認められませんでした。

夜間義歯装着と肺炎発症の関連性のメカニズムを洞察するために、義歯の習慣に関連するベースラインの口腔と義歯の状態、全身状態を調べました(表3)。夜間義歯を装着している人は、舌と義歯にプラーク、歯肉に炎症、Candida Albicans陽性、IL-6高値を認めやすい傾向にありました。

その後、歯科的状況を表2に示すように多変量Coxモデルに組み込みました。夜間義歯装着と肺炎の関係性は実質的に減衰し、歯肉の炎症またはCandida Albicansを調整後には統計的な有意差は認められなくなりました(歯肉の炎症調整後、HR 1.45、 95% CI 0.67-3.11、p=0.344、Candida Albicans調整後 HR 1.72、95% CI 0.66-4.46 p=0.264)。口腔内での炎症と微生物の負荷が、夜間義歯装着と肺炎発症のリンクをもたらしてる可能性が示唆されました。夜間義歯装着者では、ADL障害や冠動脈疾患の有病率が装着者に比べて高い傾向にありましたが、いずれの全身状態も夜間義歯装着と肺炎発症との関係に大きな影響を与えませんでした。

考察

地域在住の85歳以上の超高齢者による縦断研究において、嚥下困難感と夜間義歯装着では、深刻な肺炎イベントのリスクが、主な誤嚥性肺炎の予知因子である脳卒中や呼吸器疾患の既往、認知機能低下などと比較して2.3倍高くなる事がわかりました。
さらに、夜間義歯装着者は義歯の衛生状態が悪く、歯科医院を受診する回数が少なく、義歯と舌にプラークが付着、口腔カンジダ症の傾向が認められ、この習慣は劣悪な口腔内環境、誤嚥性肺炎のハイリスクな人を確認するための感度の高いマーカーの可能性が示唆されました。

コミュニティにおける口腔内の環境と肺炎の関連性を調べた過去の研究はあまりありません。
Awanoらは80歳以上の高齢者において、歯周ポケットを有する残存歯がと肺炎による死亡が相関する事を報告しました。
地域在住で機能的に優れいてる高齢者のコホートにおいて、Jutbini-Mehtaらは、身体の機能制限と口腔内のプラークは、入院が必要な肺炎のリスクファクターであると報告しています。
我々の結果はこの研究を裏付け、夜間義歯装着と重篤な肺炎との間に疫学的な関連性があることを示し、超高齢者の市中肺炎予防のための口腔衛生プログラムの潜在的な意味を示唆するものです。

夜間の義歯装着が深刻な肺炎リスクを向上する生物学的メカニズムの解明は、免疫機能の低下と義歯装着が多くなる超高齢者に対し、効果的な口腔健康プログラムをデザインするための根拠のある情報を提供することになります。
第一に、健康な高齢者でも、睡眠中に不顕性に口腔員等分泌物や歯肉溝滲出液を誤嚥しています。
また、不顕性誤嚥の頻度は、高齢者、特に認知症または循環器疾患を伴う場合、肺炎と強く相関します
夜間の義歯装着は、義歯衛生状態の悪化、口腔カンジダ症、義歯性口内炎と関連し、これらは潜在的な感染源のリザーバーとして機能するかもしれないと報告されています。
今回、夜間義歯装着者は、高確率に義歯、舌にプラーク、口腔カンジダ症が認められ、これは追加のエビデンスとなります。
唾液の分泌と機能は、夜間義歯装着とカンジダ感染症との関係に影響します。以前の研究で、夜間義歯装着はCandida属への唾液の防御効果が減少すると推測されています。Candida属はそれほど肺炎の原因にはなりませんが、口腔粘膜の炎症と紅斑を特徴とする義歯性口内炎の重要なリスクファクターであり、細菌病原体に対する素因となります。
そのため、唾液の防御機構は誤嚥性肺炎のみならず義歯性口内炎の重要なファクターであり、患者の夜間義歯装着習慣と口腔免疫との関係、あるいは免疫グロブリンAなどの唾液防御タンパクについて調べることが賢明でしょう。
第2に、夜間義歯装着は、貧弱な義歯清掃の指標であるかもしれません。
本研究では、夜間義歯装着者は歯科医院受診頻度、義歯清掃頻度が少なく、義歯洗浄剤の使用がかなり少ない結果でした。
このシナリオでは、夜間の義歯撤去が肺炎リスクを充分低下させるか、徹底した清掃が効果を発揮するかどうかは不明のままです。
本研究は観察研究であるため、この問題には触れていません。
最近の入所者のランダム化臨床研究では、義歯洗浄剤を使用した義歯の夜間保管は、乾燥または水中保存と比較して義歯バイオフィルムとCandida Albicans量を有意に減少させる事が分かっています。
義歯洗浄剤の使用はバイオフィルム除去効果がある事には数多くのエビデンスがありますが、その使用方法、例えば浸漬時間についての報告(Jose et al)は殆どありません。
今後、洗浄剤、または他の器具の適切な使用、夜間の義歯撤去が高齢者の肺炎リスクを減少するかどうかも合わせて検討した縦断、介入研究が求められます。

義歯の連続装着とカンジダ関連口内炎とのリンクを支持するエビデンスに基づいて、ガイドラインと歯科専門職は義歯の夜間撤去を長年推奨してきました。
にも関わらず、高齢義歯使用者の夜間義歯使用は驚くほど高率であり、ブラジルの大学病院では41.5%、トルコの60歳以上の全部床義歯装着者では55.2%、カナダの縦断研究での無歯顎者では24.2%でした。
そのため、義歯装着者の行動を変容させるため、知識と行動の乖離の要因を探ることは、有効なアプローチかもしれません。
心理社会的観点から、夜間の義歯装着の理由は多因子で、年齢、性別、文化的背景により異なります。
ブラジルの研究では、パートナーの存在が夜間義歯装着の理由であると示唆しています。
しかし、これは今回の参加者にはあてはまらないかもしれません。
なぜなら、夜間義歯装着者のかなりの割合は独居でした。
高齢者が夜間義歯を外さない他の理由は、EchnerC1、C2で残存歯またはアタッチメントが対合の顎堤に当たる場合です。
そのような場合、鋭い痛みを避けるために義歯を装着するしかないかもしれません。
実際、私達はEichnerC群では夜間義歯装着率が有意に高いことを発見しています。

以前の研究とは対照的に、本研究では教育レベルや経済的な背景は義歯装着習慣とは関連を認めませんでした。
1995年の阪神淡路大震災で、被災者の高齢者の多くは義歯を紛失し大きな問題となりました。
日本のような地震多発国では、夜間の睡眠中に義歯を外すことを促すためには、暫間義歯技術の革新、義歯の保管に関する適切な情報を記載したサバイバルマニュアルの普及が有効であると考えられます。
自費治療になりますが、
『ヨビーバ』は、3Dプリンターを用いたコピーデンチャーシステムがあります。
旧義歯の3Dスキャンを元に、フル3Dプリントにより新しいデンチャーを製作することができます。
床形態や咬合関係など、現在の義歯が再現されるため、“予備の入れ歯”としての使用が可能です。
ヨビーバを使用すれば、物理的な「予備の入れ歯」を所持できるだけではなく、データとして保管することで紛失・汚損といいたトラブルにも迅速に対応できるようになります。
データがあれば作成することができるので、データさえ残っていればすぐに作成することが可能なので心配な方は今の入れ歯のデータを作成することができます。

本研究にはいくつかの制限があります。
第1に高齢者の肺炎は、その非定型的さのために、時として過小診断されることがあります。
本研究では、肺炎での死亡または入院のみを採用しましたが、これは肺炎発症数を過少推定したかもしれません。
しかし、この効果は口腔内の健康状態によってほぼ同様であり、義歯装着のカテゴリー間の比較には影響しないと予想されます。第2にサンプルサイズが小さく、東京都市部在住の高齢者に限定されています。
歯科のリソースや配送システムは地域により異なります。
そのため、この知見はより大きなスケールで検証される必要があります。
第3に本研究の被験者は、身体、認知障害の頻度、肺炎での死亡率が高い超高齢者のみで構成されています。そのため、若めの高齢者に、この知見はあてはまらない可能性があります。加えて、本研究では義歯性口内炎をNewtonスケールのようなものを用いて正確に診断していません。
義歯性口内炎の状態が、義歯装着習慣と肺炎リスクのリンクを説明出来るかどうかについて、今後の研究が必要です。
結論として、夜間義歯装着は口腔内の炎症、微生物負荷のみならず、超高齢者の生命に危険を及ぼすような可能性のある肺炎発症、に関連しているという経験的なエビデンスを示しました。
これらの結果は、単純な義歯ケア習慣が、肺炎のリスクを下げる可能性があることを示唆しています。
先進国、発展途上国を問わず、超高齢者における歯科補綴の幅広いニーズに応えるため、エビデンスに基づくガイドライン、および適切な義歯ケアを伴う口腔保健促進プログラムを、歯科専門家、プライマリケア提供者、コミュニティサービスに緊急に普及させる必要があります。

まとめ

ハザード比で2.35で95%信頼領域1.23-4.51なので、夜間義歯装着が肺炎発症のリスク上昇に寄与しているのは比較的信用できそうです。
今までの論文でも今回の結果でも、義歯洗浄剤を使用していない、夜間義歯を装着している人が多いことがわかっています。
こちらが指導した事を守ってくれている人は案外少ないということです。
今回の結果はその指導の根拠になるデータと考えられます。
歯科医の中には、夜間も絶対入れ歯を使用してくださいという方がいらっしゃいます。
体のことを考えると夜間も使用する際は、入れ歯を徹底してきれいにして、入れ歯洗浄剤を使用してから入れた方がいいかもしれませんね。

入れ歯の管理について気になる方は下記をクリックしてください。
夜間に入れ歯を入れた方がいいのでしょうか?

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