夜間に入れ歯を入れた方がいいのでしょうか?
栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。
入れ歯のお手入れについての文献がありましたのでお話ししたいと思います。
義歯にバイオフィルム(表面に付着し、エキソポリマーマトリックスに包まれた構造化された微生物群集)が存在することは、特に介護が必要な高齢者において、深刻な全身状態と関連しています。
口腔細菌は、心内膜炎、誤嚥性肺炎、慢性閉塞性肺疾患、その他の疾患と関与しています。
口腔の健康状態と全身の健康状態の関連性について充分なエビデンスがあります。
デンチャープラークは、1ミリグラムあたり108以上の細菌で構成される複雑な集合体で、600以上の原核生物 を含みます。
異なる種の細菌はバイオフィルムの形成に協力します。
義歯患者のデンチャープラークは広範囲に研究され、レジン床義歯のバイオフィルムに関する論文は存在します。
義歯のバイオフィルムの微生物組成を精密に解析できる培養に依存しない分子生物学的手法は、Camposらによって初めて採用されました。
3種類のカンジダを含む82種類の細菌が、義歯性口内炎を有する、有しない、患者の義歯バイオフィルムサンプルから同定されました。
26の細菌が「健康な」義歯装着者(Streptococcus属が多い)で見つかり、32が義歯性口内炎患者にのみ見つかりました。
義歯性口内炎群では、Streptcoccus属23%、Atopobium属16%、Prevotella属11%という構成でした。
Candida Albicansは義歯性口内炎群で主に認められる真菌ですが、健常者群では、3種のCandidaがより多様に認められました。
健康な人と義歯性口内炎を患っている人では、関連する病原性リスクを持つ、異なるバイオフィルムが存在するようです。
Sachdeoらはモレキュラーハイブリダイゼーションを用いて、義歯のバイオフィルムから、Actinomyces属、Streptcoccus属、Veillonella parvula,、Capnocytophaga gingivalis、Eikenella corrodens、Neisseria mucosaなどを検出しました。
歯周病原因菌であるAggregatibacter actinomycetemcomitansとPorphyromonas gingivalisの存在が重要で、義歯装着者へのポピュレーションケアとフォローアップは、義歯を装着していない人と同様なものを提供する必要がある事が示唆されました。
義歯清掃不足と同様に夜間義歯装着などの不適切な習慣は、Candida関連の義歯性口内炎と相関することが明らかになっています。
そのため、夜間の撤去を臨床ではアドバイスします。これらの指導に関わらず、多くの無歯顎患者が夜間義歯を装着しています。
エビデンスに基づいた義歯のケアとメインテナンスについてのガイドラインは存在しますが、夜間保管方法についてのガイドラインは存在しません。
夜間の乾燥、水中浸漬がカンジダのコロニー化に与える影響を検討した論文が1つありますが、1986年とかなり古いです。
この研究では、水中浸漬する代わりにに夜間義歯を撤去して乾燥保管したところ、義歯上のカンジダのコロニー化が減少しました。
この研究により、義歯の微生物汚染に対する夜間保管の重要性が示されました。
しかし、現在のすべての夜間保存プロトコルが義歯の微生物汚染(細菌汚染とC. albicans汚染の両方)に及ぼす影響に関する情報はないため、夜間保存に関する明確な臨床ガイドラインを確立するために、さらなる研究が必要です。
そのため、本研究の目的は、時期の異なるデンチャープラークにおける細菌構成とCandida Albicansのコロニー化について、異なる夜間保管の影響を比較する事だそうです。
被験者の条件は、上下顎無歯顎、義歯使用、インフォームドコンセントのためのよい状態です。
2人の研究者が選択した施設入所者60名中、51名(85.9±5.9歳)が研究参加しました。
被験者はランダムに3つの義歯保管群に分類されました。1)水道水保管18名、2)乾燥保管16名、3)水道水に義歯洗浄剤17名。群分けは患者にはブラインドされました。
洗浄剤はCorega Tabs Anti-bacteria(GlaxoSmithKline Consumer Healthcare)を使用しました。
口腔衛生状態は1名の研究者によりコントロールされ、患者と施設職員に義歯を自分達で清掃しないように指導しています。
下顎義歯にプラークの集積が予想されたため、下顎義歯頬側面を実験の対象としました。
実験に先立ち、全ての義歯は水流下でのブラシとクロルヘキシジン含有の歯磨剤で機械的に清掃、消毒されました。
バイオフィルム分析は、下顎第2小臼歯部の遠心研磨面から両側性に5mm径としました。
義歯ごとにシリコーンゴム印象材のパテタイプで位置と径を標準化するための枠を製作しました。
枠は実験開始前に義歯を消毒した後に製作し、実験中に再使用できるにしました。
バイオフィルムサンプルの採取時、位置固定用リング内のバイオフィルムを綿棒にて除去しました。
綿棒は室温乾燥後に-20度で冷凍保存しました。
最初の1週間:義歯表面をターゲットとする小臼歯の面以外はブラシ+石けんで機械的に清掃。夜間水中保管。7日間後にターゲット面の左右どちらかからバイオフィルムを採取
次の1週間:機械的清掃+指定した夜間義歯保管方法。7日後に左右のターゲット面の両方からバイオフィルムを採取。前回採取した側は発達中のバイオフィルム、前回採取しなかった側は成熟したバイオフィルムという想定。
全てのサンプルが採取されたら、20種類の口腔内細菌とカンジダアルビカンス等のPCRを行いました。
この分析では定性と定量の両方が可能性です。
夜間保存条件ごとに、総菌量だけでなく、異なる菌の相対的な割合も計算しました。
少なくとも1つの保存条件において、20%以上の有病率を持つ細菌種を選択し、さらに分析を行いました。
保管方法による違い、バイオフィルム成熟度による違いの比較は、F検定と対応のないt検定、または対応のあるt検定を用いました。
有意水準は全て5%としました。
カンジダアルビカンスには特別な解析方法を用いました。
カンジダアルビカンスを定量化できれば1、存在しなければ0とし、各保存条件で比較しました。
結果
洗浄剤使用は総細菌量を減少
夜間保管介入前の義歯上のバイオフィルム形成は全ての群でほぼ均一で、各群のコントロールは有意差を認めませんでした。
発育過程のバイオフィルムでは、洗浄剤を用いた場合が、水中浸漬、乾燥群と比較して有意に細菌数が少ない結果となりました。
成熟過程でのバイオフィルムでは、水中浸漬と洗浄剤群のみで有意差を認め、洗浄剤群の方が有意に細菌数が少ない結果となりました。
各保管方法内で、発育過程と成熟過程のバイオフィルム間で有意差を認めませんでした。
義歯を使用している方は、夜間は入れ歯をしっかり磨いた後、入れ歯洗浄剤を入れたケースに入れておいた方がいいことがわかります。
気になる方は、かかりつけの歯科医院に聞いてみてください。
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