コラム
2023年03月27日

あなたは歯周病になりやすい歯肉?なりにくい歯肉?

栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。

硬い歯肉と柔らかい歯肉について面白い文献があったので書いていきたいと思います。

軟らかい歯肉は経年的に痩せやすく、前歯の被せもの治療などでしばしば問題となることがあります。
せっかく治療した被せ物が、歯周病が進行したことにより隙間が空いたり被せ物の下地が見えて見栄えが悪いなんてこともあるかもしれません。
軟らかい歯肉の局所環境そのものが、歯肉をつくる細胞である歯肉線維芽細胞の性質を、炎症を引き起こしやすく、歯肉線維をつくりにくい状態へと変化させる可能性が明らかとなりました。

      

文献の内容は以下のようになります。
歯肉が軟らかい人は経年的に歯肉が痩せやすく、前歯の被せもの治療などで見ための悪化などがしばしば問題となります。
しかし、軟らかい歯肉が痩せやすいのはどのような生体反応によるのかは、これまでほとんど解明されていませんでした。
東北大学大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野の WatcharapholTiskratok(ワチャラフォル ティクラトック)大学院生(博士課程)、山田将博准教授および江草宏教授らの研究グループは、様々な歯肉の硬さを模した細胞培養基面を製作し、ヒトの歯肉から採取した歯肉線維芽細胞を培養することで、軟らかい歯肉が痩せやすい仕組みを解明しました。軟らかい歯肉の環境そのものが、炎症を引き起こしやすくて歯肉線維をつくりにくいうえに、付着する歯肉線維芽細胞の性質を細菌の病原性因子に対して過剰反応をしやすい状態へと変化させる可能性が明らかとなりました。
本研究により、歯肉結合組織の炎症を制御するための標的分子とともに、炎症を制御するバイオマテリアル開発のヒントとなる重要な知見が示されました。
本研究成果は、2023 年 1 月 24 日に米科学誌 Scientific Reports のオンライン版に掲載されました
軟らかい歯肉は経年的に痩せやすく、一方、硬い歯肉は痩せにくいことは古くから知られており、前歯の被せもの治療に結果を左右する重要な臨床的所見となっています。
しかし、歯肉の硬さがどのような生体反応で歯肉の安定性に影響を及ぼすかはこれまでほとんどわかっていませんでした。
線維芽細胞は、歯肉の主要な常在細胞であり、その維持、修復、および再生において重要な役割を果たしています。
さらに、線維芽細胞は、様々な炎症や組織分解を引き起こす生体子を産生することにより、歯肉線維の組織分解にも関与します。
線維芽細胞は病原性因子に反応して、免疫細胞の活性化にも寄与します。生体内の局所環境の硬さは、線維芽細胞の付着、増殖、および結合組織線維の生能を調節します。
そして、線維芽細胞によって引き起こされる結合組織線維の構造変化は、線維芽細胞機能のさらなる調節を誘発するようにフィードバックします。
この線維芽細胞と線維構造の間の相互的制御は、創傷治癒、組織の線腫瘍の進行など、さまざまな生体反応に深く関与すると考えられています。
東北大学大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野の山田将博准教授および江草 宏 教授らの研究グループは、培養基面に用いられる弾性材料を用いて、硬い歯肉あるいは軟らかい歯肉の硬さを人工的に模した細胞培養基面を製作し、ヒトの歯肉から採取した歯肉線維芽細胞を培養することで、歯肉の硬さが歯肉線維芽細胞の炎症反応と結合組織線維の産生能に与える影響を調べました。
その結果、硬い歯肉線維は、細胞内の環境を感知する分子群を活性化し、炎症を司る分子の核内への移動を阻止することで、炎症を起こしづらい状態へと歯肉線維芽細胞を制御する可能性が示されました。
逆に、軟らかい歯肉線維では、細胞内の環境を感知する分子群が不活性化され、炎症を司る分子が核内へと移行しやすくなることで、炎症が起きやすく、かつ、歯肉線維の産生能が低い状態へと歯肉線維芽細胞の性質が変化することが明らかとなりました。
本研究は、その成果として、歯肉結合組織の炎症を制御するための標的となる生体内分子に関する知見を得ることができました。
さらに、炎症状態の微小環境を模倣する生体機能チップへの応用をはじめとした、生物資源を用いずに、物理的に細胞の炎症反応を制御するバイオマテリアルや炎症研究のための先進的デバイスの開発のヒントとなる重要な基礎的知見となることが期待されます。
本研究成果は、2022 年 1 月 24日に米科学誌 Scientific Reports のオンライン版に掲載されました。

やわらかい歯肉が、硬い歯肉より炎症しやすい部分があることがわかりましたが、どの程度のやわらかさで進行しやすいのかこの文献からではわかりません。
ここでいうやわらかい歯肉は、あくまでも炎症していない歯肉のことで、硬い歯肉も骨隆起などの骨の出っ張りがあるところの歯肉は固い傾向にあります。
実際には、ぶよぶよとした歯茎は、磨き残しなどの汚れがたまり炎症を起こしている状態のことが多いと思います。
歯茎に炎症が起きている状態のことを「歯肉炎」といい、歯肉炎がひどくなると「歯周炎」に変わり、これらの総称を歯周病と呼びます。
歯周病が進行すると、歯茎が赤く腫れぶよぶよと柔らかい状態になります。歯磨きや少しの衝撃で出血するようになりますが、痛みが伴わないケースが多いため、放っておく方が多いです。
しかし、そのままにしておくと出血がひどくなるばかりか、膿がでて口臭の原因になることもあります。歯周病は、適切な治療をしない限り改善されることはありません。
硬い歯肉がいいといっても、タバコを吸っていると歯肉の腫れや出血が見た目上抑えられ、患者さん自身が歯周病に気づきにくくもなります。
実際に治療を始めても歯肉の治りは悪く(もちろん何もしないでいるよりは改善しますけれど)、手術を行ったとしても効果の現われ方が非喫煙者よりも低いのです。
しかも、治療後経過を追っていくと、喫煙者の歯肉は再び悪くなっていく傾向にあります。どうしてこういう事が起こるのでしょうか?
タバコの煙に含まれる「一酸化炭素」は組織への酸素供給を妨げますし、「ニコチン」は一種の神経毒で、血管を縮ませるので、体が酸欠・栄養不足状態になります。
ニコチンは体を守る免疫の機能も狂わせますので、病気に対する抵抗力が落ちたりアレルギーが出やすくなります。更に傷を治そうと組織を作ってくれる細胞(線維芽細胞といいます)の働きまで抑えてしまうので、手術後も治りにくくなります。
また、「ヤニ」という形で歯の表面に残っているので、歯がざらざらしてバイ菌が張り付きやすくなるのはもちろん、いつまでもお口の中や歯肉にニコチンが染み出しつづけることになります。
禁煙することで、この危険性が下がっていくことも、研究の結果解っています。
その結果の一つに「歯周病にかかりやすさ」は4割も減ります。
手術後の治療経過も禁煙者は非喫煙者とほとんど差が無くなります。
ちなみに他の病気でも、肺癌にかかる危険は喫煙者では非喫煙者の4.5倍ですけれど、禁煙すると4年で2.0、5年で1.6、10年で1.4倍と着実に落ち着いてきます。
結果として、お口の健康から全身の健康へシフトしていきましょう。

今回の、歯肉のやわらかさによる歯周病のリスクは、あくまでも一つの指標であって、やわらかい歯肉だからと言って必ず悪くなるわけではありません。
あなたに合った歯ブラシや補助清掃機具を使用し、定期的なメインテナンスをしてきましょう。
ただし、リスクの一つなので気を付けましょうということです。

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