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2024年01月17日

再生治療を含めた歯周外科治療 ①

栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。

歯周病治療特に歯周外科について書いていきたいと思います。

歯周病の治療は、詰め物や被せ物を行うような保存補綴等の歯科治療と異なり、患者側と医療提供側とが相互参加する医療と言われています。
いわゆる、患者側の疾患に対する認識と理解が必要になり、歯周治療に対する前向きな姿勢と歯科医院との協力などが得られなければ、間違えなく成功しない治療なのです。
当然、原因除去のプラ-クコントロールが達成されなければ、良好な治療成果が得られないことになります。
特に、歯周病治療の歯周外科手術の成否は、患者の歯肉縁上の細菌コントロールと術者の歯肉縁下に対して行う細菌のコントロールが十分達成された後、患者さん歯科医師の相互関係と技術レベルとの中で決定されます。
以上のような背景を認識しながら、歯周治療および歯周外科治療を成功させるための考え方に少しでも臨床に役立てばいいかと思います。

第一回 歯周外科治療術前に行う歯肉の炎症と力のコントロール
第二回 歯周外科治療の術前準備
第三回 術中における患者さんの管理
第四回 歯周外科基本 “切開、剥離”
第五回 歯周外科基本 “術部の処理”
第六回 歯周外科基本 “縫合”
第七回 再生治療における骨移植術
第八回 歯肉移植術における人工材料の応用
第九回 創傷治癒と術後管理
第十回 SPTと管理

第一回 歯周外科治療術前に行う歯肉の炎症と力のコントロール

歯周基本治療における、歯周炎にたいして行う歯肉炎症コントロールが、すべての治療の基本となります。
まず、歯周基本治療
がしっかりできていないと、歯周外科の成功はしないと思っていいでしょう。
もし、歯科医師が歯周基本治療をすべて
他人任せにしているなら、考え方を改めましょう。
歯周基本治療がろくにできず、歯科衛生士さんに歯周基本治療が指導できないのに、歯周外科がしたいからと言って治療をしたとしても失敗する可能性が高いでしょう。

歯肉の炎症の捉え方に差異はあるものの、手術前にはプロービング時やポケット辺縁歯肉擦過時に歯肉溝からの出血がしないことが重要になります。
炎症が残存している状態での歯周外科のリスクには、歯肉退縮にによる歯根面の露出や知覚過敏など、縫合不全による上皮の根尖側移動や治癒不全等があり、審美的要求のある前歯部や小臼歯部にもしばしば認められることがあり、術後の予後不良の原因の一つといわれています。
しかしながら、すべての方が、全周にわたり炎症が完璧に消失することは困難とも言えます。
歯周基本治療の成功には、歯肉の厚みや幅、骨欠損の状態などにも関連します。
歯周基本治療で、歯周組織の状態を把握してスケーリングやルートプレーニングを実施しているでしょうか?
ただ、いわれただけで何の気なしに行ってはいないでしょうか?
日本人に多いといわれている、歯肉の薄い下顎前歯部や付着歯肉の幅が少ない下顎小臼歯などについて、出来るだけ歯根面だけでなく歯肉等の軟組織を損傷させないよう慎重に行い、そして丁寧に行うのはもちろんのこと、通常のキュレットを使用するか、ミニファイブやブレードを工夫した刃先のものを使用するなど工夫するなど必要があります。
もちろんしっかりとシャープニングを行っていなければ論外になります。

歯周基本治療後の歯肉退縮や角化歯肉の狭小を極力防止するこが、この後の歯周外科治療の良好な予後を得るのに重要な要因であると考えられます。

歯周外科を行う前の歯周基本治療こそ、基本であり重要なファクターの一つだと考えられます。
当たり前のことなのですが、歯周外科を成功に導くには、正確な歯周精密検査を行い、診査診断を治療計画を立て歯周基本治療をしっかり行うこと大前提になります。

かみ合わせのコントロールについて

咬合性外傷は、外傷によって引き起こされる歯牙周囲組織の破壊であり、一次性咬合性外傷と二次性咬合性外傷とに分けれれています。
歯周組織とは、セメント質、歯槽骨、歯根膜、歯肉の4つに分けられます。

咬合性外傷では、歯周組織的変化として、歯根膜の圧迫部での変性壊死や歯槽骨の吸収を伴うことがあります。
歯周治療を行うにあたって、咬合性外傷の有無を的確に診断し、外傷に対する処置を見極めることも重要になります。
症状がある歯牙が、何が原因でそのような状態に至ったかがを診査診断できるようになることが重要になります。

咬合性外傷に対する処置としては、垂直および水平的な外傷性咬合を慎重に除去し、安定した咬合を確立させることが重要になります。
咬合調整は、咬合性外傷によって増悪した歯周組織の破壊を軽減させ、歯周炎により低下した歯周組織の機能の回復させることを目的にしています。
咬合性外傷の所見としては、診査による「歯の動揺」X線上の「歯根膜腔の拡大」が重要になります。

咬合性外傷に対する処置

1)咬合性外傷と歯周炎の進行との関係について

外傷性咬合は歯周炎の原因因子ではありませんが、歯周炎を進行させる重要な修飾因子になります。
咬合性外傷に対する治療は、外傷性咬合を除去し、安定した咬合を確立させ、咬合性外傷によって増悪した歯周組織の破壊を軽減することを目的とします。
咬合調整や固定を行う際は、最初に細菌感染に対する処置を行った上で、明らかに咬合性外傷の症状や徴候が認められた場合に行うことを原則になります。
具体的には以下のとおりである.
① 細菌感染に対する歯周基本治療を行うことが前提です。ただし、症状や障害が認められる場合などは、咬合調整を優先させることがあります。
② 歯周基本治療の一つである細菌感染に対する処置を行うことで、炎症が消退し動揺がしばしば減少しますが、一部の歯では変わらず動揺したり、動揺が増加したりする場合には、再度咬合調整を行い固定を行うことがあります。
③ 依然、歯牙の動揺が改善しない歯は、咬合調整や固定を行うことがあります。
④ 動揺が増加している歯牙は、必要により咬合調整や固定を行うこともあります。
しかし、重度の歯周炎患者においては 一歯から数歯に限局した咬合調整や歯冠形態修正、暫間固定などで治療効果が認められない場合には、広範囲にわたる歯周治療用装置による暫間固定や永久固定などを考慮した治療計画の立案が必要となる場合があります。

2)咬合調整と歯冠形態修正

咬合調整とは、外傷性咬合を改善させることにより、咬合時の歯周組織に加わる咬合力の負担を軽減させ、歯周組織の周囲の炎症を緩解させ鎮静させることが目的となります。
歯を選択的に削合することにより、咬合力を多数歯に均一に分散させ、歯軸方向へ咬合力が伝わるようにさせ、より正しい歯の接触関係を維持し、歯周組織の安静をはかる治療法ですが、歯の動揺などの症状が認められない場合には、早期接触歯をすべて調整する必要はありません。
咬合調整の目的は、歯周組織に生じた咬合性外傷の改善を第一としていますが、さらに顎関節症やブラキシズムの改善、さらには歯冠修復後や矯正治療によるの咬合の安定化、食片圧入の改善、矯正治療を障害する早期接触の除去も含まれます。
歯冠形態修正とは、歯冠形態の不良により生じる外傷性咬合を除去および分散を目的におこない、辺縁隆線の位置や歯冠の頰舌径の形態修正、または咬頭斜面や咬頭などの歯冠部形態の修正を行うことになります。

これは早期接触が存在しなくても行うことがありますが、咬頭嵌合位の接触部は必ず保存しなければいけません。
咬合の側方圧がかかる部分や広範囲の面接触を削合して咬合力を軽減させるようにします。
しかし、歯の削合という行為は不可逆的な行為であるので、十二分に咬合状態を精査した後、患者さんに必要性などを十分に説明し同意を得たうえ、適切な削合を行わなければなりません。

また、口腔衛生状態の不良により歯周組織に炎症のある歯牙については、炎症に伴い歯が移動している可能性があり、炎症の改善により正常な位置に戻ることもあるので注意が必要になります。

したがって、歯周組織に炎症があるときには、重度な外傷性咬合部のみ調整し、徹底したプラークコントロールを行うことにより、歯周組織の炎症が消退した後に精密な咬合調整を行わなければいけません。
咬合性外傷は、X線画像による所見、臨床所見として、以下のうち 1 つまたは複数が含まれます。
1)歯の動揺の増加
2)咬頭嵌合位時の早期接触
3)著しい歯牙の咬耗
4)深い歯周ポケットの形成
5)歯の病的移動
6)アブフラクション(くさび状欠損)
7)歯の破折など
エックス線画像による所見としては、以下のうち 1 つまたは複数が含まれます。
1)歯根膜腔の拡大
2)歯槽硬線の変化(消失や肥厚)
3)骨の喪失(根分岐部、垂直性、ロート状)
4)歯根吸収
5)セメント質の肥厚
以上の所見や徴候がない場合は、咬合性外傷ではない可能性が高いということになります。

3)暫間固定

暫間固定は、咬合性外傷を咬合調整のみでは、緩解改善できない歯牙の動揺を強く認められる場合に、歯周組織が破壊されて二次性咬合性外傷を生じやすい場合に行う治療の一つです。
暫間固定は、外傷をおこした当該歯を周囲の歯牙と連結し固定することにより、歯牙の周囲組織に対する咬合力や咬合圧等の力の分散及び歯牙及び歯周組織の安静を図ることにより、咬合性外傷を改善したり歯牙組織・歯周組織の破壊的応力を避けるために行うようにしています。
歯周基本治療の暫間固定の目的の一つに、一定期間固定を行うことにより歯周組織の変化を観察するためがあります。
歯牙の動揺が著明だと、咬合状態や咀嚼機能等に機能障害がでてしまう場合には、早期に暫間固定を行い咀嚼機能の改善を行う必要があります。
一般にはプラークコントロールによる歯肉の炎症の改善や咬合調整を行っても咬合の安定が得られかった場合に行うことがあります。
そして、歯周治療の歯周外科処置による外科的な侵襲により、一時的に歯の動揺が増大し、歯周組織の治癒に悪影響を及ぼすことが考えられる場合には、術前に暫間固定を行い、術後に歯周組織の安定および動揺の改善を待ち、緩解安定した後、暫間固定を除去をします。
歯周外科処置後において、歯数カ月ほど歯牙の動揺が増大する傾向にあることはわかっています。
そして、徐々に動揺が改善していくこともわかってきてます。
以上のように、暫間固定を行う
期間や時期、治療方法を決めるには、歯周組織の破壊の程度や広がり、残存している歯列での動揺している歯牙の位置関係、歯牙の状態などを考慮しなければなりません。

【歯周治療における暫間固定を行う際の注意事項】

① 歯牙の暫間固定を行う前と後に咬合調整を慎重に行う。
② 歯牙の暫間固定及び装置が、口腔衛生状態を増悪させないようにしないような設計をしましょう
③ 定期的な経過観察や管理がとても重要で、徹底したプラークコントロールの状態を維持、早期接触や側方時の干渉の有無の確認、さらには固定装置の破損などのチェックを行います。
④歯周組織の安静と咬合の安定が得ることができた場合に、暫間固定を除去し状態によっては、永久固定などの最終補綴物への移行を検討する必要があります。
歯周治療において歯牙の暫間固定法の術式は種々存在しますが、固定部位や歯牙にかかる咬合圧咬合力に耐えることができるような暫間固定法を選択する必要性がでてきます。

4)歯周治療用装置(プロビジョナルレストレーション)

歯周病患者において、抜歯、歯牙の欠損が存在するときや不適合な修復物、補綴物の除去を行う必要がある症例では、歯周治療中に、最初に咬合機能と審美性を回復するため、暫間的な補綴治療を行う場合があります。
これら上記の装置は、歯周治療中において審美的障害咀嚼機能障害を改善し、残存歯への咬合力の負担を軽減する目的で製作するものです。これは、歯周治療用装置ともよばれ、義歯床形態あるいは歯冠形態の装置などがあります。

不適合修復物や不良補綴物が歯周病の発症に大きくかかわっている場合には、歯周基本治療中において、不適合修復物・補綴装置を除去し、歯周治療用装置を装着することで残存歯の歯周組織の安定を図ることができます。
また、欠損歯が存在し咀嚼障害を引き起こしている場合、残存歯数の減少により二次性咬合性外傷を引き起している場合においても歯周基本治療中に歯周治療用装置を装着し、咀嚼、咬合の回復によって、歯周組織の安定をはかる必要があります。
とくに治療が長期間に及ぶと予測される患者について、歯周治療用装置は重要な処置であり、少なくとも歯周外科治療を行う前には、歯周治療用装置の装着が行われている必要性が出てきます。

【歯周治療用装置の注意事項】

① 咬合や審美性の回復だけでなく口腔衛生管理が容易に行えるような形態に設計しなければなりません。
歯周治療用装置(冠形態)は歯肉縁上マージンが歯周管理上望ましく、歯肉辺縁ギリギリではなく明らかに炎上マージンにする方がいいと思われる。
また、歯冠のオーバーカントゥアを避ける必要があり、歯間ブラシが使用できるよう歯間空隙の大きさに注意も要します。

② 歯周治療用装置の装着中においても、歯周組織の状態を観察することにより、歯周炎の再発の危険性のある部位の把握や適切な形態などを考慮し、最終補綴装置の設計に反映させなければなりません。
③ 歯周治療用装置は、必ず定期的な管理を行い、調整・修理、および口腔衛生指導なども行う必要があります。

5)ブラキシズムの治療
ブラキシズムとは、咀嚼筋周囲が異常に緊張し、咀嚼、嚥下および発音などの機能的な運動と関係なく、非機能的に上下の歯を無意識にこすり合わせてしまう(グラインディング)、くいしばり(クレンチング)、連続的にかちかちと咬み合わせてしまう行為(タッピング)の悪習癖があります。

すなわち上下の歯の間に食物がない状態で行われ、強い咬合力、とくに側方力が歯に加わるため、歯周組織に咬合性外傷を引き起こす可能性があります。
歯周炎において、ブラキシズムによる咬合性外傷が合併すると病変が急速に進行し、短期間に重度の歯周炎へと発展し易くなります。
治療は、ブラキシズムの原因と思われる局所因子(早期接触などの
異常な咬合接触)と全身的因子(精神的ストレスなど)を取り除くことが基本となります。

しかしながら、ブラキシズムの原因や成り立ちは十分に解明されておらず、個人差が大きく関与するため、治療がむずかしいのが現状です。
そこでまず行うべきことは、原因と思われる早期接触部のみを調整する最小範囲のの咬合調整や、オクルーザルスプリント(歯ぎしりに対するマウスピース)の装着を行って経過を観察するのがいいでしょう。
最初から、広範囲な咬合調整やフルマウスリコンストラクションの、一度に多くの歯を削るなどの不可逆的な治療を行うことは可及的に避けるべきです。

また、睡眠中に生じるブラキシズムにおいて、就寝前にブラキシズムをしないことを自分に言い聞かせる自己暗示法を行うことがありますが、睡眠時ブラキシズムの原因には多くの因子が関連していると考えられ、現時点で睡眠時ブラキシズムを効果的に抑制できる的確な治療法はいまだありません。

6)矯正治療

プラークコントロールを妨げるような、歯牙の位置異常が存在する場合や歯列不正による咬合性外傷が明らかな場合には、矯正治療を行うことで歯周治療の効果を高めることができます。
しかし、
矯正治療が困難なほどの歯槽骨吸収が著しく進行した症例もあるため、適応症を選んで行う必要があります。
矯正を行う時期は、歯肉の炎症が緩解され改善した状態で、歯周組織の安定が得られていることが必須条件になり、基本的には歯周ポケットが消失した後が望ましい条件です。
歯列不正が原因で細菌性プラークの蓄積するからといっても、歯周治療が不十分な時期に矯正治療を行ってしまうと、歯周組織の破壊を促進することもあるので慎重に行うことが必要になります。
また、矯正治療後の咬合調整は必須であり、
最終的にバランスのよく取れた咬合状態を維持することと、その後の経過観察が重要となります。
矯正治療により歯列が改善されるようになると、口腔内の衛生管理が容易となり歯周組織の維持安定させることになります。

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やまのうち歯科医院

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