歯周病を重症化させる原因の一つを阻害させる薬の研究
栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。
今回のテーマは、歯周病を重症化させる因子を阻害し重症化を防ぐ研究について書いていきたいと思います。
新潟大学で、タンパク質分解酵素であるエラスターゼが歯周病を重症化さ、エラスターゼを阻害する薬剤により歯周病の重症化を抑制できることを明らかにしました。
この研究は、新潟大学大学院医歯学総合研究科の日吉巧助教、土門久哲准教授、寺尾豊教授らの研究グループによるものです。
研究成果は国際学術誌 Scientic Reportsに掲載されています。
さて、聞いたことがない、歯肉上皮層を破壊するといわれるエラスターゼとは何でしょう?
エラスターゼとは、免疫細胞である好中球がもつタンパク質分解酵素であり、細菌などの異物を分解することで、体を守る働きをするといわれています。
その一方で、歯周組織中のエラスターゼの量が多い患者は重度の歯周病を発症することが報告されており、エラスターゼが歯周炎を重症化するメカニズムについては、これまでに明らかにされていませんでした。
本研究グループは、まず、細胞同士を接着させることで細菌の侵入を防ぐ「細胞接着分子」に対して、エラスターゼが与える影響を調査しています。
その結果、エラスターゼは細胞接着分子を分解することが明らかになりました。
さらに、歯肉上皮細胞層にエラスターゼを作用させると、細胞同士の接着が破壊され、剥離することがわかった。
歯肉上皮における細胞接着分子の分解と上皮層の剥離作用
エラスターゼ阻害剤が歯槽骨吸収を抑制
研究グループは続いて、歯周病のマウスに対し、エラスターゼを阻害する薬剤を投与。その結果、歯槽骨吸収が抑制されることが明らかになりました。
歯周病マウスにおける、エラスターゼ阻害剤投与時の骨吸収抑制作用
今回の研究から、本来細菌感染から体を守る役割をもつエラスターゼが、細菌の侵入を防ぐ歯肉上皮層を破壊するという、歯周病の重症化をもたらす新しいメカニズムが解明されました。
また、エラスターゼの働きを阻害することにより、歯周病の重症化を防げる可能性が示唆されました。
耐性菌リスクのない歯周治療として期待
医療現場における抗菌薬の多用は、耐性菌を生み出す危険性があるため世界的な問題となっています。
現在の歯周治療は、主に歯周病原細菌の制御に焦点を当てたものであり、場合によっては抗菌薬を使用するため、耐性菌を生み出すリスクはゼロではありません。
その一方で、エラスターゼを標的とした歯周治療は薬剤耐性菌を生み出すリスクがないため、近い将来、エラスターゼ阻害剤が歯周治療に応用されることが期待されています。
いまだ、実験段階の状態ですが少しでも歯周病を改善させる方法が増えることを望みます。
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