コラム
2024年01月05日

神経を取ると歯が弱くなるって本当でしょうか?

栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。

神経を取ると歯が弱くなると聞いたことありませんか?

それは本当なのでしょうか?

ドナーが同じ根管処置歯と生活歯の象牙質の物性が異なるということは知られています。
これによると根管処置歯は生活歯よりも劣化、脆化が認められ、歯根破折しやすくなる事がどちらかというとマクロ的な視点でわかりました。
今回は、同じ著者達が行った研究でミクロレベルでの実験になります。
今回は象牙質を粘弾性体として捉えた実験を行っているので、貯蔵、損失、複素弾性率、tanδというものが出てきます。
これについてはネットに落ちていた貯蔵弾性率等の説明をご参照下さい。

象牙質には、段階的なミネラルの象牙細管封鎖などの加齢による微細構造の不可逆変化が起こります。
硬化象牙質として知られていますが、このプロセスは根尖からスタートし、歯冠方向に進行していき、破折抵抗の低下に関連しています。

目的:特に歯根の菅間象牙質の加齢変化、生活歯と失活歯の加齢劣化の違いを決めることです。

方法:若年成人および高齢者の歯の管周象牙質および管周象牙質について、走査モードによるナノスコープ動的力学分析を行いました。
動的(複素)弾性率、損失弾性率、貯蔵弾性率、tanδパラメータを、未修復歯と根管処置歯について評価しました。

結果:加齢による菅間象牙質の動的弾性率の有意な変化が特に歯根側1/3で認められました。菅間象牙質の貯蔵弾性率、変形に対する純粋な弾性抵抗を定量化したもの、については、高齢者の生活歯、失活歯は若年成人と比較して有意に大きい値を示しました。しかし、粘性変形の相対容量を定量化したtanδは、これら2群(高齢者の生活歯、失活歯)は有意に小さくなりました。

歯根部の象牙質は加齢により脆弱化し、粘性変形のキャパシティが低下します。
劣化の程度は根尖1/3が最も大きくなりました。
抜髄は加齢変化を加速させる、または劣化の程度を悪化させるようです。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

ここ数十年における寿命の延長とオーラルヘルスケアの急速な進歩によって、有歯顎高齢者人口が増加しました。
結果として、デンタルケアを必要とする高齢者人口が増えています。有歯顎高齢者の増加は歯科専門職に新たな挑戦をもたらしました。
破折歯、他の機械的劣化という問題です。歯の破折は、患者の年齢に関係なく起こりますが、垂直破折は40~60歳の患者に最もよく起こります。
これらのタイプは根管治療で治すことができず、抜歯に至ることが多いです。

歯根から始まる破折や、歯冠の線角部から広がる破折は、一般的に象牙質を含みます。
象牙質は高度に石灰化した組織で、体積比で約45%のミネラルで構成され、エナメル質の基質となります。
歯髄からデンティンエナメル境(DEJ)およびセメント質に向かって放射状に伸びる微細な溝(細管)のネットワークが横断しています。
象牙細管内は、内液と象牙芽細胞の突起があります。細管は、主にアパタイト結晶からなる管周象牙質の高度に石灰化した物質により囲まれています。
象牙細管の間の菅間象牙質はコラーゲン線維のメッシュ構造で、線維間および線維外のアパタイト結晶によって補強されています。

成人象牙質の微細構造はダイナミックです。加齢により透明性の段階的な変化が起こります。これは象牙細管がミネラルにより閉鎖される、硬化に関するプロセスの結果です。象牙質の硬化は根尖付近の組織で最初に起こり、最も深刻です。
象牙細管は歯冠部と比較して、より小さい径で低密度となります。

象牙質硬化のメカニズムはよくわかっていませんが、その結果はよく知られています。
特に、加齢に関する象牙質微細構造の変化により、ダメージへの耐性が低下します。
加齢と象牙質の機械的性質について調べた過去の研究では、歯冠部、歯根部共に強度が低下しました。
さらに、疲労強さ、破折抵抗、クラック成長に対する抵抗なども加齢により有意に低下しました。
しかし、これらの研究には2つの鍵となるlimitationがあります。殆どが冠部象牙質を用いていること、歯根の調査では、空間的バリエーションが考慮されていないことです。
さらに、加齢による象牙質ダメージ耐性の劣化は、主に最も注目されるもの、すなわち象牙細管を満たすミネラルに起因しています。
対して、菅間象牙質の変化は殆ど注目されていません。

歯根破折で懸念されるのは、生理学的な加齢変化だけではありません。
失活歯、根管処置歯は、生活歯と比較して破折しやすいです。垂直破折は過去に根管処置を行った歯によく起こります。
AAEによると、垂直破折は根尖部のクラックから始まり、歯冠部に延長します。
垂直破折は根管処置時に生じた象牙質内部のクラックから生じると信じている人がいます。

確かに、根管処置時に生じた象牙質の欠損は寄与因子になるかもしれません。
しかし、これまでの研究では、根管処置の対象となった歯の象牙質内には欠陥は確認されず、垂直破折への寄与も考えにくいことが報告されています。
垂直破折の原因や、根管処置が破折の進行にどのように関与しているかについては、議論の余地があり、依然として明らかではありません。

根管処置により歯髄の除去は、象牙質構造の不可逆的な変化と関連しています。
年齢とドナーを調整した歯の歯根象牙質の強さを比較した所、根管処置歯は30%も強さが劣る結果でした。
いまだ、失活歯、特に根管処置後に機能を営んできた歯の加齢変化、歯根の劣化における空間バリエーションはよくわかっていません。
高齢者における根管処置歯の歯根破折は、根尖部の機械的性質の急速な劣化によるもので、管間または菅周象牙質の構成の違いが明らかかもしれません。
この現象を理解することは、治療法の開発や歯科材料の開発に向けた第一歩となります。

圧痕法は、加齢と硬化による象牙質の機械的物性変化を特定するのに用いられてきました。
肉眼での圧痕法では識別不可能であり、顕微鏡レベルでのナノインデンテーションが硬組織の物性を計測するスタンダードな方法で、粘性の調査に用いられています。
ナノインデンテーションまたは原子間力顕微鏡が菅間、菅周象牙質の変化を別々に測定するのに必要です。

ナノスコープ動的力学分析(nanoDMA)は、ナノインデンテーションに基づいた構造解析の特殊なものです。
走査型プローブ顕微鏡を用いた走査型nanoDMAは、圧痕応力をエラスティックな範囲に維持するため、高感度分析に適しています。
象牙質の接着や加齢変化の評価に用いられています。象牙質再石灰化の研究でも、コラーゲン架橋構造の測定に使用されています。
しかし、しかし、歯根内のnanoDMAマッピングを用いた、管間象牙質と管周囲象牙質の加齢に伴う独特な変化や、生活歯と失活歯の違いを明らかにした研究は報告されていません。

本研究では、nanoDMAの走査モードを使用し、ドナーの年齢、歯髄の生死、組織学的状況などに関する歯根象牙質の動的機械的物性を検討しました。2つの仮説が立てられました。
年齢により歯根長に沿った菅間象牙質の機械的物性に有意差はない、菅間象牙質の特性は生活歯と根管処置歯で有意差はないとのことです。

神経を取る治療は、加齢変化を加速させ、劣化の程度を悪化させるということはミクロレベルで認められるということです。
虫歯にさせないようにすること、できるだけ神経を取らない治療をすることが重要ということがわかります。
しかしながら、感染した神経を残しても悪化するのみですし、虫歯を削らないで治療することも不可能です。
個人で書いている一般雑誌や本では、治るようなことを書いてあるものがありますが、そのようなもののほとんどの方は論文を書いて無く、研究もしていないことが多く認められます。
疑いすぎるもの困りますが、信じ切るもの困ることがあります。
あなたの体のことなので、よく調べてからやることをお勧めします。
この文献も、今現在の考えなので10年後はどうなるかわかりません。
しかしながら、虫歯や歯周病にさせないことがお口の健康にいいことは確定しています。
できる限り悪くしないようなお口の環境を作りましょう。

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