子供の歯磨きをいつまで手伝えばいいのでしょうか?
栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。
子供の歯磨きをいつまで手伝えばいいのでしょうかというのがテーマです。
保護者の方から「いったい何歳頃まで子どもの歯を磨いてあげれば良いのですか?」と質問を受けることが良くあります。
皆さんは、どれくらいだと思われますか?
幼稚園年長時でしょうか
小学校低学年?
小学校高学年まで
中学生までした方がいいのでしょうか
これはなかなか難しい質問もあります。
個人個人の能力の差や性格、心身、精神の問題もあるので一概にいつまでとは言えないところがあります。
個人差は、お口の診査ができる時期は2歳くらいといわれていますが、あくまでも目安になります。
治療ができるといわれている年齢は、4歳からといわれていますが、スムーズにできることトレーニングしてもなかなかできない子もいることがあります。
元に戻りますが、歯を磨くのを手伝う年齢の基準として、年長児なので自分で歯を磨いても、第1大臼歯が生えてきたら心配なんて声も聞くことがありますし、歯科医師側からも気を付ける時期になります。
小学校中学年では、上顎前歯部の歯頚部や隣接面の磨き残しが気になります。
さらに、高学年になると第2大臼歯も生えてきます。
歯の交換とともに、次々とリスクの高い部位が変化してきますので、仕上げ磨きのやめ時がなかなかわからなくなります。
だからむし歯予防のための歯磨き介助は必要になります。
そーなんです。
しかしながら、年長児でも、まだ自分自身の力では充分に磨けないといわれています。
はぶらしすることは、みんなと一緒に磨こうとするのが普通だと思いますが、歯磨き介助が、子どもの発達に悪影響を及ぼすものであってはならないとも考えています。
お子さんの為に、お子さんが十分にできないところを重点的に行うためのものであって、お子さんがしなくてもいいわけではないと考えています。
手が不自由だったり、高齢者で自分で磨けないわけではないのなら、歯ブラシをさせてあげてください。
それでは、今度はあなたは何歳まで磨いてもらっても平気でしょうか?
幼稚園年長時
小学校低学年
小学校高学年
中学生
むし歯予防の立場からは、可能な限り介助磨きをして欲しいところなのですが、磨かれる立場であれば、いつまでも素直に従えるでしょう。
歯磨き指導は、子どもがきれいに磨く能力を身に付けるよう援助するものです。
そこで次から、手の発達について考えてみましょう。
子どもの手は、大人の様に器用に動かせません。
手の発達にも順序があります。
それでは、どのような順序で発達するのでしょう。
そこで発達の原則について簡単に述べてみる。
まず発達は、中枢から末梢へ進む。
これは神経発達と一致する。
この法則を頭尾律といいます。
例えば出生時、哺乳時には口が動くし、目も見える。
首が座り出した後には、寝返りが待っている。
さらにお座りに続いて、つかまり立ちやハイハイが始まる。
かくして一人立ちが可能となる。
このように発達は、頭から足へと進むことがほとんどです。
余談ですが、一般的に日本では、”ハイハイ”の後に”つかまり立ち”があります。
欧米の小児科の成書を見ると、”つかまり立ち”の方が先になっているようです。
なんでだろう?
以前の日本は、広い部屋に畳が日常生活でした。
一方、欧米では机や椅子の生活です。
そのような理由があり“つかまり立ち”が容易な文化が、発達の順序に影響するのかもしれませんね。
そう考えると、我が国でも室内環境の変化により”つかまり立ち”が先になっているかもしれません。
4足歩行の動物が、直立2足歩行になり手が解放され、それに伴い、ヒトの手の本来の働きを獲得したといわれています。
ここにも順序があり肩・肘・手首・指先の順に発達します。
面白いことにこの順序は、低年齢児のなぐり書きの絵と深く関係します。
どのように描くのでしょうか?
まず、1歳の誕生日の頃になると肩が動き出します。
逆にいえば、肩しか動かないのでなぐり描きの絵となることがほとんどです。
そして1歳を過ぎると、肘まで動かすようになります。
そのため、肘を中心としたワイパーのような線を描くようになります。
また2歳になると、手首が動くので、うずまき状や縦線となります。
次ぎに2歳半になると、目の働きがついてくるので始点と終点が一致した絵となります。
さらに大脳の発達とともに、人間を描き出すといわれています。
運動発達は、次の二つの側面から考える必要があります。
粗大運動と微細運動です。
粗大運動は、座る・ハイハイ・歩くなどの全身を使う運動です。
微細運動は、手で対象物をつかむ・つまむといった細かな運動です。
まず粗大運動が発達し、微細運動がそれに続くといわれています。
これは、私たち歯医者の臨床にも関係する内容です。
例えば私たち歯科医が麻酔の刺入時、肩の固定、続いて肘を固定させ脇を閉め、そして手首の固定をします。
こうして指先を細かく動かせることができるようになります。
さらに、歯に固定元を置いてぶれないようずれないようにしていきます。
これらができなければ刺す位置が定まらないので、刺入の位置がぶれれば不必要な痛みを与えてしまいます。
ようするに、手の機能においても肩→肘→手首の順で発達が進むということです。
粗大運動ができて、始めて細かい動きが可能になるのです。
私たち歯医者は、診療中に無意識に息を止めていることがあります。
例えば、麻酔の刺入の瞬間や、抜歯時、集中するときは必ずと言って息を止めます。
これも固定源の確保の問題なのかもしれません。
刺入時の肩の固定の前には、上半身の固定が必要になります。
そこで大きく息を吸って止めることによって、胸郭を固定させ上半身の固定につながります。
ちなみに息を止めるのは、喉頭蓋や声帯の作用です。
これらは、誤嚥の防止や発声のためだけの器官ではありません。
治療中に、ため息のような息をすることがありますが、集中して呼吸を止めた後の呼吸なので、ため息ではありません。
以前患者さんにため息と思われ、そんなに治療するのが嫌なのかと怒られたことがありました。
治療はしっかりやりましたが、以上のことを話しても、理解してもらえなかったことがありました。
発達の例として、シャーペンを例に考えてみましょう。
小学校高学年頃になると、これで字を書くことが当たり前になります。
しかし幼児ではどうでしょうか。
すぐに芯が折れるのではないでしょうか?
手の固定が未熟なため、筆圧の調整が難しいからといわれています。
だから、幼児は、太いマジックや軟らかいクレヨンを利用するのです。
さて、これを歯磨きに置き換えるとどうなるのでしょうか?
一人は、歯ブラシを手のひらで握っている。
一方は、左は親指と人差し指でつまむように持っている。
どちらの方が、しっかり磨けるのでしょうか?
親指と人差し指でつまむように持っている方法では力が入らず磨けません。
これは、柄の細い歯ブラシ、柄の太い歯ブラシを与えた時のものです。
柄の太さだけで、これだけ歯ブラシの持ち方に差がでるのです。
幼児には、まず太い歯ブラシを与えた方が良いことがわかりますよね。
これは、幼児用のスプーンやフォークの柄と同様です。
通常、成人が歯を磨く際には、歯ブラシを指先で軽くつまむように保持する。
そしてすべての歯面に歯ブラシの毛先を到達させて歯垢を除去する。
しかし、これは手の機能の未熟な幼児には通用しません。
子供は、大人を小さくしているものではありません。
そこで、幼児の手の機能を理解するために考えてみませんか。
今、あなたが利き手を怪我し、反対の手で歯を磨くとしましょう。
細い柄の歯ブラシをペングリップで磨いてみてください。
1:指先に力が入らないので、歯ブラシが持ちにくい。
2:特に細い柄の歯ブラシは 持ちにくい。
3:大きな動きしかできない
4:細かいところが磨けない。
上記のことに気が付いたと思います。
歯ブラシの固定が不十分だから思ったように磨けないのではありませんか。
これは幼児だけの問題ではありません。
マヒなどで手の不自由な方も同様です。
ここでゴムホースや自助具を利用して柄を太くすると磨きやすいのです。
さらにはヘッドの大きさも重要になります。
ヘッドの大きい歯ブラシの方が安定して磨けます。
保護者の介助磨きや、成人が磨く場合は、逆にヘッドが小さい方が有利になります。
しかし歯の空間的位置が把握されていないと、歯に当たりにくくなります。
すなわち幼児は、ヘッドの大きい方が歯に到達しやすく安定感が得やすいことがわかります。
障害児施設へ栃木県から委託され非常勤の歯科医師として10年になります。
多くの障害を持つ子ども達を診てきたつもりです。
肢体不自由で知的能力障害の16歳の方が来られました。
口腔内にトラブルはなく、いつも歯がきれいです。
いつも保護者が歯を磨いておられるようでした。
この方は、6歳の頃から10年以上定期健診を欠かしたことはありませんでした。
3か月に一度、一人息子を車椅子に乗せ遠くから車で来られる。
しかし身体が大きくなり、体重も重くなってきました。
車椅子に乗せるだけでも大変なことだと思います。
家族のことを考えると、連れて来ていただくのが気の毒になる。
そこである時、保護者の方に
「歯はとってもきれいなので、定期健診は半年に1回で十分ですよ。」
と伝えました。
しかし保護者の方は「3か月に1回通いたいのです」と答えられた。
私は「でも、いつも遠方から来られるのはたいへんでしょう」とお話ししました。
するとこのような答えが返ってきました。
「私は、この子の障害を治すことはできません。でも、みんなに自慢できる歯にすることはできるのです。」
あらためて、身を引き締めて診療に当たらなければならないと思った。
他にも長年、診てきた方々がたくさんいます。
しかし将来を考えると、気になることがたくさんあります。
それが保護者の高齢化です。
これまで私は、障害を持つ子どもの歯科医療において、自分なりの目標を持って診療を行ってきたつもりです。
それは、彼らが大きくなった時に、
1.自分で歯科医院に行く
2.チェアーに上がって大きな口を開く
3.ある程度歯磨きができる
これが達成できれば、医科的な障害があったとしても、歯科的な障害はないことになります。
スペシャルニーズ歯科に最も適した考えなのではないかと思います。
そう考え、診療や患者さんとの信頼関係に気を配ってきました。
しかし、なかなか思い通りに行かないことがあります。
保護者が高齢のため、やむなく施設に入った途端、口腔内が悪化したケースもあると聞き及びます。
もちろん、きっちり取り組んでいる施設もあることは知っていますし、以前よりかなり増えてきました。
いずれにせよ、そこで求められるのは、”歯磨きの自立”だと思います。
しかし、年齢と共に歯磨きは、どのように上手になっていくのでしょうか?
これに対する明確な解はありません。
ノーマライゼーションという言葉があります。
ノーマライゼーションは、高齢者や障がい者などを排除するのではなく、健常者と同等に当たり前に生活できるような社会こそが、正常(ノーマル)な社会であるという考え方です。
そして、こうした正常(ノーマル)な社会を実現する取り組みをノーマライゼーションといいます。
身体や精神の状況にかかわらず社会が誰にも通常どおり生活できるようにするのがノーマライゼーションなのです。
それが法の目的であり、誰かに特権を付与するものでもありません。
ノーマライゼーションが、正しい意味で広がることを切に願います。
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