歯の根元が削れている?「くさび状欠損・非う蝕性歯頸部病変」はなぜ起こるのか
栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。
歯みがきの仕方や歯磨剤との関係を実験から考える
「歯の根元がへこんでいると言われた」
「歯と歯ぐきの境目がくぼんできた」
「歯ブラシをしっかり当てているのに、歯が削れている気がする」
このような経験はありませんか?
歯の根元に、むし歯とは違う「くぼみ」や「削れ」を認めることがあります。こうした病変は、専門的には非う蝕性歯頸部病変(Non-Carious Cervical Lesions:NCCL)と呼ばれます。
「歯ブラシで歯を削ってしまったのでしょうか?」と心配される方もいますが、実際にはNCCLの原因は一つとは限らず、酸による歯質の溶解(エロージョン)、機械的な摩耗、歯に加わる力など、複数の要因が関係すると考えられています。
今回ご紹介する研究では、その中でも「歯ブラシによるブラッシング」と「歯磨剤」が歯の根元の形態にどのような影響を与えるのかを、抜去した人の歯を使って実験的に調べています。
このでは、この研究の内容をできるだけ分かりやすく解説します。
文献による原因の要点
- 歯の根元の「削れ」は、必ずしもむし歯とは限りません。
- 非う蝕性歯頸部病変(NCCL)の原因は、現在も完全には解明されていません。
- 今回の実験では、水だけでブラッシングした場合、肉眼で確認できる歯質の喪失は認められませんでした。
- 一方、歯磨剤を使用したブラッシングでは、CEJ付近に肉眼で確認できる摩耗が認められました。
- 歯ブラシの毛の硬さだけではなく、歯磨剤の存在も重要な要素として考えられます。
- ただし、これは抜去歯を使ったin vitro(実験室内)の研究であり、その結果をそのまま人のお口の中に当てはめることはできません。
- 「歯磨剤を使うと必ず歯が削れる」という意味でもありません。
- 歯の状態や歯ぐき、ブラッシング方法などを総合的に確認することが大切です。
非う蝕性歯頸部病変(NCCL)とは?
まず、「非う蝕性歯頸部病変」という言葉から説明しましょう。
「非う蝕性」とは、簡単にいうとむし歯によるものではないという意味です。
「歯頸部」は、歯の頭の部分と歯の根の境目、つまり歯と歯ぐきの境目付近を指します。
つまり、非う蝕性歯頸部病変(NCCL)とは、
むし歯ではない原因によって、歯と歯ぐきの境目付近の歯質が失われ、くぼみや欠損などが生じた状態
と考えると分かりやすいでしょう。
症状が進むと、歯の根元がくぼんで見えたり、場合によっては知覚過敏のような症状につながったりすることがあります。

なぜ歯の根元が削れるのでしょうか?
NCCLについては、以前からさまざまな原因が考えられてきました。
代表的なものとして、
① エロージョン(酸による歯質の変化)
酸によって歯質が影響を受けることです。
酸性の飲食物などによる影響が知られていますが、今回の研究の目的は、酸蝕の影響を詳しく調べることではありません。
② 摩耗
歯ブラシなど、何らかの物理的な刺激によって歯質が失われることです。
今回の研究では、特にこの「ブラッシングによる摩耗」に注目しています。
③ 歯に加わる力
歯には、噛む力や食いしばりなど、日常生活の中でさまざまな力が加わります。
こうした力がNCCLの形成に関係している可能性も考えられています。
ただし、NCCLがどのような仕組みで形成されるのかは、科学的に完全に解明されているわけではありません。
ここは非常に重要なポイントです。
今回の研究では何を調べたの?
今回の研究の目的は、実験室内でNCCLを再現することでした。
特に、歯ブラシと歯磨剤を使ったブラッシングによって、実際に歯の根元にどのような変化が起こるのかを調べています。
研究では、抜去されたヒトの歯を使用しました。
用意された歯ブラシは、
- やわらかめ
- ふつう
- かため
の3種類。
さらに、それぞれについて一般品と有名ブランド品を使用し、合計6種類の歯ブラシが試験に使われました。
そして、ブラッシングに使用するものとして、
- 低研磨性の歯磨剤
- 中研磨性の歯磨剤
- 高研磨性の歯磨剤
- 水のみ
という4種類を組み合わせています。
さらに、歯ぐきを模倣した素材を設置する条件と、設置しない条件も設定しました。
つまり、
歯ブラシ6種類 × ブラッシング液4種類 × 歯肉マスク2条件
という組み合わせで実験を行い、合計192本の歯が使用されました。
かなり多くの条件を組み合わせて、歯の変化を観察した研究です。
実験で分かったこと
今回の研究で特に興味深いのが、「水だけ」のグループと「歯磨剤を使用した」グループの違いです。
水だけでブラッシングした対照群では、肉眼で確認できる歯質の喪失は認められませんでした。
一方、歯磨剤を使用してブラッシングしたグループでは、歯磨剤の研磨性や歯ブラシの毛の硬さにかかわらず、セメント・エナメル境(CEJ)付近に肉眼で確認できる摩耗が認められました。
CEJとは、簡単にいうと歯のエナメル質とセメント質が接する、歯と歯ぐきの境目付近です。
今回の実験では、この部分にブラッシングによる摩耗が観察されました。
「かたい歯ブラシだけ」が問題だったわけではない
ここで注意したいのが、
「かたい歯ブラシだから歯が削れた」
という単純な話ではないことです。
今回の研究では、歯ブラシの毛の硬さを「やわらかめ」「ふつう」「かため」と変えて実験しています。
しかし、研究結果では、歯磨剤を使用したブラッシングにおいて、毛の硬さにかかわらずCEJ付近に肉眼的な摩耗が認められました。
つまり、歯の根元の摩耗を考えるときには、歯ブラシの硬さだけではなく、
「何を使って、どのようにブラッシングしているのか」
という複数の条件を考える必要があるということです。
「歯磨剤は使わないほうがいい」という意味ではありません
ここは患者さんにぜひ知っていただきたいところです。
今回の研究結果だけを見て、
「歯磨剤を使うと歯が削れるから、歯磨剤は使わないほうがいい」
と考えるのは適切ではありません。
今回の研究は、抜去歯を使った実験室内の研究です。
実際のお口の中では、
- 唾液
- 歯ぐき
- 舌
- 食事
- 噛み合わせ
- 歯の位置
- ブラッシング方法
- ブラッシングの頻度
- 口腔内の状態
など、さまざまな要素があります。
今回の実験環境とは大きく異なります。
また、この研究の目的は、歯磨剤を使用した場合にどの程度の歯質が失われるかを統計的に測定することではなく、臨床で見られるさまざまなNCCLの形態や大きさを実験室内で再現することでした。
したがって、
「この歯磨剤を○年間使うと、歯が○mm削れる」
といった結論を導くことはできません。
歯を守るために大切なのは「力任せに磨かない」こと
歯をきれいにしたいと思うあまり、
「強く磨けば、もっときれいになる」
と考えてしまう方もいるかもしれません。
しかし、歯みがきは「力」だけで汚れを落とすものではありません。
歯ブラシを強く押しつけるのではなく、歯と歯ぐきの状態を確認しながら、適切な方法でブラッシングすることが大切です。
特に、
- 歯の根元がくぼんできた
- 歯ぐきが下がってきた
- 冷たいものがしみる
- 歯ブラシを当てると痛い
- 歯の根元が以前より細く見える
といった変化がある場合には、一度歯科医院で確認してもらうとよいでしょう。
「歯の根元が削れている=歯磨きが悪い」とは限りません
NCCLが見つかったとき、
「自分の歯みがきが悪かったのでしょうか?」
と心配される患者さんもいると思います。
しかし、NCCLの形成にはさまざまな要因が関係すると考えられており、一つの原因だけで説明できるとは限りません。
歯の形態や位置、歯ぐきの状態、酸による影響、機械的な摩耗、歯に加わる力など、患者さんによって状況は異なります。
そのため、単純に
「歯磨きが強いから削れた」
と決めつけるのではなく、現在のお口の状態を確認することが重要です。
知覚過敏との関係にも注意
歯の根元が削れたり、歯ぐきが下がったりすると、「冷たいものがしみる」などの症状が出ることがあります。
ただし、歯がしみる原因はNCCLだけではありません。
むし歯、歯周病、歯のひび、歯肉退縮など、さまざまな原因が考えられます。
そのため、
「歯がしみるから知覚過敏だろう」
と自己判断せず、症状が続く場合には歯科医院で確認することをおすすめします。
まとめ|歯の根元の「削れ」は原因を一つに決めつけないことが大切
今回ご紹介した研究では、抜去したヒトの歯を使ってブラッシングを行ったところ、水だけのブラッシングでは肉眼で確認できる歯質の喪失が認められなかった一方、歯磨剤を使用したブラッシングではCEJ付近に肉眼で確認できる摩耗が認められました。
この結果から、歯磨剤を使用したブラッシングが、実験条件下で歯頸部の摩耗に関係する可能性が示されています。
一方で、この研究はあくまでin vitro(実験室内)の研究です。
実際の患者さんのお口の中で、NCCLがどのように形成されるのかについては、今回の研究だけで全てを説明することはできません。
NCCLの病因は完全には解明されておらず、酸による影響、摩耗、歯に加わる力など、複数の要因が関係している可能性があります。
だからこそ、歯の根元にくぼみがある場合には、
「強く磨いているから」
「歯磨剤を使っているから」
「年齢のせいだから」
と一つの原因に決めつけるのではなく、歯や歯ぐき、ブラッシング方法などを総合的に確認することが大切です。
歯を長く健康に保つためには、「たくさん磨く」ことではなく、「自分の歯や歯ぐきの状態に合った方法で磨く」ことが重要です。
気になる歯の根元のくぼみや知覚過敏がある方は、一度歯科医院で相談してみましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 歯の根元が削れているのは、むし歯ですか?
必ずしもむし歯とは限りません。
むし歯ではない原因によって歯の根元が失われる「非う蝕性歯頸部病変(NCCL)」の場合があります。
Q. 歯磨剤を使わないほうがいいですか?
今回の研究だけから、歯磨剤を使わないほうがよいとはいえません。実際のお口の中は実験環境とは異なるため、歯磨剤の使用については、お口の状態に応じて歯科医師・歯科衛生士に相談しましょう。
Q. やわらかい歯ブラシなら歯は削れませんか?
今回の研究では、歯磨剤を使用した場合、歯ブラシの毛の硬さにかかわらずCEJ付近に摩耗が認められました。したがって、「やわらかい歯ブラシなら絶対に問題ない」とは言い切れません。
Q. 歯の根元がしみます。どうすればいいですか?
知覚過敏だけでなく、むし歯や歯周病など別の原因が隠れている可能性もあります。症状が続く場合は、歯科医院で原因を確認することをおすすめします。
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