犬を飼うと死亡リスクが低下する?
栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。
動物を飼うと死亡リスクが低下するのか問う文献がありましたので書いていきます。
国立環境研究所の谷口優氏らは、オーストラリアの世帯・所得・労働の動向(Household, Income and Labor Dynamics in Australia;HILDA)調査コホートのデータを追跡し、ペット飼育者の属性とペットの種類、全死亡リスクとの関連を検討している文献があります。
「ペット非飼育者に比べ、ペット飼育者の全死亡オッズ比(OR)は有意に低かったが、ペットの種類別では犬の飼育者のみで有意な低下が観察された」とPLoS One(2024; 19: e0305546)に報告しています。
ペット飼育者1万5,000人超の4年後死亡率を追跡
HILDAはオーストラリアの所帯事情を調べる同国で唯一の大規模調査です。
今回、2018年のデータからペットの飼育状況に関する質問票に回答した1万5,735人のデータを4年間追跡し、2022年の全国死亡統計(National Death Index)のデータとマッチングさせました。
ベースラインの平均年齢は46.1±19.1歳で、女性が53.1%。
既婚者が47.3%、事実婚が16.5%だった。1万5,735人のうちペット飼育者は9,525人(60.5%)、非飼育者は6,210人(39.5%)でした。
ペットの種類別では、イヌを飼っている人が6,898人(43.8%)、ネコが3,717人(23.6%)、鳥が1,532人(9.7%)、魚が1,203人(7.7%)、その他のペットが1,028人(6.5%)でした。
イヌを飼うことに伴う身体活動の増加が関連か
4年間の追跡期間中、1万5,735人中377人(2.4%)が死亡。死亡時の平均年齢は75.1±14.8歳でした。
ペット飼育者では9,525人中148人(1.6%)が死亡、非ペット飼育者は6,210人中229人(3.7%)が死亡しました。
このうちイヌ飼育者は106人(1.5%)、ネコ飼育者が63人(1.7%)、鳥飼育者が25人(1.6%)、魚飼育者が13人(1.1%)、その他のペット飼育者が12人(1.2%)でした。
治療の逆確率重み付けをし、傾向スコアをマッチングさせたロジスティック回帰モデルの結果、非ペット飼育者と比べたペット飼育者全体の全死亡ORは0.74(95%CI 0.59~0.93、P=0.010)と有意に低くなりました。
しかし、ペットの種類 vs. 非ペット飼育者全体で比較すると、全死亡のORはイヌでは0.77(95%CI 0.59~0.99、P=0.044)と有意に低かったが、ネコ、鳥、魚、その他のペットでは、全死亡のORはそれぞれ0.77(同0.56~1.05、P=0.105)、0.69(同0.40~1.22、P=0.205)、0.68(同0.30~1.54、P=0.335)、0.80(同0.33~1.93、P=0.619)と有意差がありませんでした。
4年の追跡期間は短いのでは?
ペットを飼うことがヒトに及ぼす身体的・心理的・社会的影響についてはこれまでにも多数の研究があり、死亡率に与える影響についても肯定的なものから否定的なものまでさまざまな報告があります。
イヌを飼うことと全死亡(の改善)の根底にある機序についても検討しています。
おそらくイヌを飼うことのベネフィットの1つは、身体活動レベルの維持/増加に寄与することであろう」と考察しました。
研究の強みとして、①オーストラリアの代表的世帯の大規模調査のデータを活用した、②回帰分析の重み付けに際し、広範な変数を導入した―ことを挙げる一方、①4年という追跡期間は過去の研究に比べると短い、②死因のデータがない、③ペットへの愛着(attachment)など、心理的側面に影響する幾つかの重要な変数が含まれていない―を限界としています。
また、このような文献もあります。
認知症リスクを下げるのはイヌかネコか?
社会の高齢化に伴い増加し続けている認知症は高齢者の要介護認定や死亡の危険因子であり、認知機能低下の進展抑制因子の同定が期待されている分野です。
健康に良い影響を及ぼすことが示唆されているペットの飼育に着目。ペットを飼育している高齢者の社会医学的特徴に基づく傾向スコアマッチング解析を行い、イヌやネコの飼育と認知症の関連などを検討しました。
ペット飼育と認知症発症との関連を示す研究は初めてとのことです。
飼育率はイヌが8.6%、ネコが6.3%
今回の対象は、高齢者のフレイルと要介護認定を予防して健康寿命を延伸することを目的とした大田区元気シニア・プロジェクトの参加者のうち、ペットの飼育経験についての質問票に回答した1万1,194人(平均年齢74.2±5.4歳、女性51.5%)。
東京都大田区の住民基本台帳から2016年6月1日時点で要支援または要介護認定を受けていない65~84歳の区民を層化ランダム抽出(外国人を除き性・年齢階級65~74歳、75~84歳で層別化)。
自記式質問票を郵送し、運動、栄養、社会参加などの状況に加え、ペット飼育経験の有無、飼育経験がある場合はペットの種類(イヌ、ネコ、その他)を尋ねました。
現在のイヌおよびネコの飼育状況は、イヌ飼育者が959人(8.6%、女性54.4%、65~74歳59.2%、75~84歳40.8%)、イヌ非飼育者が1万235人(91.4%、同51.2%、46.7%、53.3%)、ネコ飼育者が704人(6.3%、同52.1%、60.4%、39.6%)、ネコ非飼育者が1万490人(93.7%、同51.5%、47.0%、53.0%)で、124人が両方を飼育していました。
介護保険情報を用いて2020年までの認知症発症率を調査。ベースライン時の年齢、性、世帯人数、配偶者の有無、学歴、過去1年間の転倒歴、喫煙、運動習慣、近隣住民との交流、社会的孤立などの社会医学的特徴に基づき傾向スコアを算出し、逆確率重み付け回帰分析により認知症発症のオッズ比(OR)を算出しています。
イヌ飼育者で認知症リスクが有意に低下、ネコ飼育者では有意差なし
約4年の追跡期間中に560人(5.0%)が認知症を発症した。解析の結果、イヌ非飼育者と比べてイヌ飼育者では認知症発症リスクが有意に低くなりました(5.1% vs. 3.6%、OR 0.60、95%CI 0.37~0.97)。
一方、ネコ非飼育者と飼育者に有意差はありませんでした(5.0% vs. 4.5%、OR 0.98、95%CI 0.62~1.55)。
追跡1年目の認知症発症例を除外した感度分析においては、有意ではないもののイヌ飼育者でリスク低下傾向が示されました(OR 0.67、95%CI 0.40~1.14)。
イヌの世話に伴う運動や社会参加の維持による効用か
次に、イヌ飼育の有無別に運動習慣および社会的孤立と認知症発症との交互作用を検討しました。
その結果、イヌ飼育・運動習慣あり群、イヌ飼育・社会的孤立なし群で認知症発症のリスク低下が認められました(順にOR 0.37、95%CI 0.20~0.68、P=0.0001、同0.41、0.23~0.73、P=0.002)。
ただし、イヌ非飼育・運動習慣あり群およびイヌ非飼育・社会的孤立なし群でもリスク低下との有意な関連が示されたのに対し(順にP=0.003、P<0.001)、イヌ飼育・運動習慣なし群とイヌ飼育・社会的孤立あり群では関連がなかったことから(順にP=0.728、P=0.075)、谷口氏らは「イヌ飼育者では、日常的なイヌの世話に伴う運動や社会参加の維持が認知機能に保護的に働いていることが示唆される」と考察した。
これらの結果を踏まえ、同氏らは「地域在住高齢者を対象とした大規模縦断研究における傾向スコアマッチング解析の結果、イヌの飼育が認知症発症リスク低下に関連する可能性が示唆された」と結論。
さらに「イヌの飼育はコロナ禍のような対人交流が制限される状況下においても、運動習慣や社会参加の維持に寄与することが期待できる」と付言していました。
以上のことを鑑みると、犬を飼った方が認知症と長生きするという結果になりました。
平成16年の調査では犬を飼育している理由として「好きだから」「一緒にいると楽しいから」「かわいいから」などが上位を占め,約29%の人は「防犯のため」と答えています。
令和2年の調査(犬)では「生活に癒し・安らぎが欲しかった」「過去に飼っていて,また飼いたくなった」が上位を占めています。
今後は、認知症や長生きの為に犬を飼うというのが上位に行くかもしれませんね。
犬好きにとっては朗報な内容でした。