妊娠中、授乳中の歯科治療時の投薬
栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。
本題に入る前に、もう1つだけ前置きをしておきます。
意外と医療従事者でも知らない方が多いですが、ほとんどの場合において「妊娠中に使える薬」は「授乳中も使える薬」です。
妊娠中に胎盤を通じて赤ちゃんに移行する薬の量に比べると、授乳中に母乳を通じて赤ちゃんに移行する薬の量は圧倒的に母乳の方が少ないです。
また、「胎児の器官形成に影響する」「子宮収縮作用がある」などの理由で妊娠中に使えない薬がいくつかありますが、これらも出産した後なら問題ないわけです。
よって、基本的に「妊娠中に使える薬なら、授乳中も使える」とお考え下さい。
ただし、逆に授乳中に使えるから妊娠中も使えるとも限らないので注意しましょう。
歯科に特に絡むことなのですが、
テトラサイクリン配合トローチ(アクロマイシントローチ)は避けるべきです。
テトラサイクリンは「歯牙黄染」と言い、赤ちゃんの歯が変色するリスクがあります。
一般的なテトラサイクリンの用量に比べるとトローチでは含有量は少なく、何錠か舐める程度で起きることは考えにくいですが、それでも妊娠中・授乳中は避けた方が無難ですね。
しかもすぐに問題が出るのではなく、永久歯になってから、歯の変色に気が付くことがほとんどになります。
PL顆粒
歯科ではあまり関係ないのですが、風邪で内科に行くとよく処方される、透明な袋に入った白い粉薬です。
中身としては、解熱剤(サリチルアミド/NSAIDs、アセトアミノフェン)、抗ヒスタミン剤(プロメタジンメチレンジサリチル酸塩)、鎮痛剤(無水カフェイン)の合剤です。
NSAIDsとカフェインの常用は妊娠中あまり良くないのですが、そもそもPL配合顆粒における含有量が多くないので、風邪の時に少し飲む程度で赤ちゃんに影響することは考えにくいと考えられています。
だからといって、何も考えず飲んで良い薬というわけでもありません。
風邪にPL配合顆粒を処方すること自体、内科の先生の間でも賛否があるようです。
結論としては、先生の考え方といったところになります。
歯科治療で使用する抗菌薬について
妊娠・出産期に医療でよく使う抗菌薬トップ3がペニシリン系、セフェム系、マクロライド系です。
最も使用するものは、ペニシリン系で抜歯や外科処置等に使用することになります。
次いで、ペニシリンアレルギーがある場合にクリンダマイシン系(ダラシン®など)が使われる、といった順列でしょうか。
この4種類は赤ちゃんへ与える影響についてそれなりに信頼できる研究があり、安全性が保障されています。
実際に使う場面としては、
ペニシリン系は抜歯や感染治療を行った際、
マクロライド系は上顎洞炎等に対して使われます。
要は、ものすごく使用経験の積み重ねがあるのです。
そのため、他科の先生方が抗菌薬を処方される場合も、たいていこの中のどれかを使用することになります。
勿論、これら以外にも使える抗菌薬はいっぱいあるのですが、種類が多すぎてたいおうできません。
とはいえ、大抵の場合はこの4種類でこと足りると思います。
この4種類でカバーできない妊娠中の細菌感染症はかなりのレアケースだからです。
ただし、ペニシリンやセフェムでもβラクタマーゼ阻害薬配合剤は話がことなるとききます。
クラブラン酸に限った報告ではありますが、妊娠時の使用により新生児の壊死性腸炎のリスクが上昇したという報告があります。
その頻度はあまりはっきりしていませんし、他のβラクタマーゼ阻害薬に関するデータもありませんが、歯科ではまず使用することはまずありませんのでご安心ください。
グラム陰性菌や嫌気性菌のカバーを目的にβラクタマーゼ阻害薬を考慮する場面があるならば、最初からそれらにスペクトラムのある薬剤などにしておくのが無難といわれています。
痛み止めについて
産婦人科だけではなく歯科でも、実はけっこう使う場面の多い薬です。
通常の妊娠経過でも、出産後の後陣痛・会陰部の痛みによく使われます。
頭痛持ちの妊婦さんもいらっしゃいますし、コロナ・インフルエンザ感染症の妊婦さんに解熱剤を使うこともありますね。
アセトアミノフェン(カロナールなど)
2022年8月、新型コロナウイルス感染者の急増によりカロナールの出荷調整がされたのは記憶に新しいところですね。
当院でも、購入できず院外処方箋になることがあります。
後述するNSAIDsに比べて、妊婦さんや子供にも使いやすいからと処方されまくったのが原因のようですね。
確かにアセトアミノフェンはかなり妊娠中・授乳中の安全性が高い薬です。
もっとも、他が使いにくいので相対的に立場が強いという事情もあります。
NSAIDs(バファリン、ボルタレン、ロキソニンなど)
NSAIDsの持つPG合成阻害作用は、妊娠後期では赤ちゃんの動脈管閉鎖の原因になるため原則禁忌です。
しかし、逆に言えば妊娠前期~中期や授乳中の服用は問題ないと言えますし、習慣流産や妊娠高血圧症候群の発症予防に低用量アスピリンを長期内服するという手法も存在しますので、NSAIDsは何が何でもダメ!というわけではないようです。
とはいえ、解熱鎮痛剤を使いたいならアセトアミノフェンを優先する方が無難といわれています。
特に妊娠中に、わざわざNSAIDsを優先すべき場面はほとんどないと思われます。
授乳中の方なら、先生によっては処方することも多いようです。
あまりにも大量でなければ赤ちゃんへの影響も無視できるレベルだといわれているからだそうです。
以上が妊娠中に、注意する薬剤になります。
すべて正しいとわけではありませんが、妊娠中にお薬を服用する際は、かかりつけの産婦人科に確認ととると確実かもしれません。
妊娠中、出産後は女性ホルモンの分泌量は大きく変化します。
さらには、体調の変化や口腔内の状態も著しく変化する可能性があります。
それらにより、体やお口のトラブルが発生しやすくなります。
皆さんもお気をつけてお過ごしください。
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