ホープレスな歯を残すと、ほかの歯まで影響を受けるのか?
栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。
ホープレスな歯を残すとほかの歯まで影響を受けるのでしょうか?という内容です。
「ホープレスな歯」という明確な歯科用語は存在しません。
しかし、一般的に「絶望的な歯」や「手遅れの歯」といった表現で、治療が困難な状態の歯を指すことがあります。
ホープレスな歯とは?
「ホープレスな歯」と呼ばれる状態は、主に以下の様な状態を指すことがあります。
- 進行した虫歯: 歯髄まで達し、神経が死んでしまっている状態。根管治療を行っても再発のリスクが高く、抜歯が必要になるケースも。
- 重度の歯周病: 歯を支えている歯周組織がほとんど破壊され、歯がぐらついている状態。歯周病の進行が著しく、歯を維持することが困難な場合。
- 根が折れてしまった歯: 外傷などにより歯の根が折れてしまい、修復が難しい状態。
- 歯冠が大きく破損した歯: 歯の頭の部分が大きく欠けてしまい、修復が困難な状態。
以上を踏まえて、ホープレスな歯について書いていきたいと思います。
ホープレスな歯を放置することが、隣接する歯に影響を与える可能性があります。
以下にその理由をいくつか挙げてみます。
感染の拡大: ホープレスな歯は通常、深刻な歯周疾患や歯根の感染を示しています。これらの感染は、隣接する歯にも拡がる可能性があります。
噛み合わせの変化: ホープレスな歯が存在しないことで、噛み合わせに変化が生じることがあります。これにより、隣接する歯の負担が増え、歯が不均等に摩耗したり、歯茎の問題が引き起こされる可能性があります。
歯の移動: 歯が欠けたり抜けたりすると、隣接する歯がその空間に移動しようとします。この結果、歯列が不規則になり、噛み合わせが悪くなる可能性があります。
顎関節の問題: 歯の喪失が顎の関節に影響を与え、顎関節症のリスクを高めることがあります。これは、噛み合わせの変化や歯の移動によるものです。
ホープレスな歯を残すと、隣在歯に悪影響を与える可能性が高いです。具体的には、以下のリスクがあります。
虫歯や歯周病の進行
ホープレスな歯は、虫歯や歯周病が進行しやすい状態です。治療が困難なため、放置すると虫歯や歯周病菌が隣在歯に感染し、悪化する可能性があります。
歯槽骨の喪失
ホープレスな歯の周囲の歯槽骨は、炎症によって徐々に失われていきます。歯槽骨が失われると、隣在歯を支える力が弱くなり、歯がグラグラしたり、抜歯が必要になったりする可能性があります。
顎の変形
歯を失うと、顎の骨が徐々に吸収されていきます。特に、複数の歯を失うと、顎の変形が顕著になり、咬合障害や審美的な問題を引き起こす可能性があります。
全身疾患のリスク増加
虫歯や歯周病は、全身疾患のリスクを高めることが分かっています。ホープレスな歯を残すことで、虫歯や歯周病が進行し、糖尿病や心疾患などのリスクが高まる可能性があります。
精神的な負担
ホープレスな歯を残していると、痛みが続くなど、精神的な負担が大きくなります。また、周囲の人から指摘を受けるなど、人間関係にも悪影響を与える可能性があります。
ホープレスな歯の治療
ホープレスな歯の治療としては、以下の選択肢があります。
- 抜歯
最も一般的な治療法です。抜歯後は、ブリッジやインプラントなどの補綴治療で歯の欠損を補います。
- 根管治療
歯の神経と血管を除去し、根管を消毒・充填する治療法です。根管治療が成功すれば、歯を残すことができます。
- 歯牙移植
別の部位から歯を移植する治療法です。ホープレスな歯の状態や、移植する歯の状態によっては、治療ができない場合があります。
ホープレスな歯の判断
ホープレスな歯かどうかは、歯科医師の診断によって判断されます。
判断基準としては、以下のものが挙げられます。
- 虫歯や歯周病の進行度
- 歯根の残存量
- 歯槽骨の状態
- 隣在歯の状態
- 全身疾患の有無
- 患者さんの希望
したがって、ホープレスな歯を放置することは、その他の歯や口の健康に影響を与える可能性があるため、避けるべきです。歯科医に相談し、適切な治療オプションを検討することが重要です。
かなり古い文献ですがこのような文献があります。
歯周的に「絶望的な」歯に隣接する近位骨の喪失(抜歯の有無にかかわらず) 重度の付着喪失を伴う歯(「絶望的な」歯)の抜歯は、歯科医院で一般的な処置です。
最近のエビデンスは、このアプローチの妥当性を疑問視しています。
本研究の目的は、「絶望的な」歯に隣接する抜歯の有無にかかわらず歯槽骨の変化を調べることです。
このレトロスペクティブ研究には、129 人の患者から合計 145 本の歯が含まれました。
歯は、クラス III の分岐部病変が存在する場合、または歯槽骨の喪失が 50% を超える場合に「絶望的」と定義されました。
分岐部病変Ⅲ度になると、以下の症状が現れます。
歯根分岐部にプローブが容易に入る
歯根分岐部周囲の歯槽骨が著しく破壊されている
歯が動揺している
膿が出る
患者は 2 つのグループに分けられました。
A は、実験期間中保持された 82 本の「絶望的な」歯(71 人の患者)で、B は、抜歯された 63 本の「絶望的な」歯(58 人の患者)です。
平均観察期間は 4 年間で、最短 2 年間でした。
歯槽骨の変化は、解剖学的歯根(レントゲン写真の頂点-CEJ)の割合として、シェイ定規を使用して測定されました。
結果から、残存した「絶望的」歯の両側の歯の骨損失が、抜歯された「絶望的」歯の両側の歯の年間骨損失 0.23% の 10 倍の 3.12% と、有意に大きいことが明らかになりました(P < 0.0001)。
この研究は、歯周治療を行わない場合、重度の歯周病の歯を残存させると、隣接する歯に悪影響が出ることを裏付けています。
歯周病が進行すると、ほかの歯まで影響が受けると思われているのはこの論文から引用する方もいらっしゃいます。
しかしながら、ここで出ている患者さんは定期的なメインテナンスとホームケアの指導を行っているわけではありません。
治療しないで放置したままにすると、重度の歯周病の方は隣接歯に大きく影響受けると考えられます。
なので、歯周病に罹患した方は、絶対に徹底したホームケアと定期的なメインテナンスを行わないと周囲の歯周組織まで悪化することがわかります。
症状がないからと言って放置すると悪影響がありますので、症状が出る前にかかりつけの歯医者を作りましょう。