コラム
2024年06月11日

不正咬合とお口の疾患、歯周病について

栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。

歯並びと歯周病について書いていきたいと思います。

不正咬合の影響

矯正に関する書籍やホームページ等をみると不正咬合の悪影響が数多く書かれています。
あるいは受診した歯科医からも矯正治療の必要性について説明を受けることがあると思います。
こうした話には正しい部分もありますが、一部にはまだ科学的に証明されていない部分もあります。
この項目ではその幾つかの点について検証してみたいと思います。

歯列不正、あるいは不正咬合があると虫歯になりやすいか?
小児期より歯科医のもとで齲蝕管理を受けてきた方のものです。
不正咬合があったとしても、虫歯がない症例は多く見受けられます。

この症例からも分かるように不正咬合は虫歯になる必要条件ではありません。
虫歯はたとえ歯並びが悪くても適切な方法がとられれば予防可能な疾患といえます

このことはかなり古い論文で既に言われています。
「叢生(乱杭歯)は齲蝕感受性をあげることはない」と明確に述べられています。

歯列不正、あるいは不正咬合があると歯周病になりやすいか?

右の症例は子どもなので歯周病のリスクを議論することはできませんが、歯肉はきわめて健全です。
また80歳を過ぎても、著しい叢生があるにもかかわらず20本以上の歯が残っている方もいます。こうした点から考えても、不正咬合は歯周病になる必要条件ではありません。
歯周病はたとえ歯並びが悪くても適切な方法がとられれば予防可能な疾患といえます。

この件に関する論文は少ないのですが
患者と方法: 125人の成人患者(女性63人、男性62人)の年齢と性別を特に考慮した臨床検査とキャスト分析を使用して、摩耗の臨床的程度と、歯の破損、歯の破折、う蝕、歯肉炎、歯周炎、歯肉退縮(WHO-OHS法)の個々の発生率を判定し、疾患の発生率とそれぞれ計算された歯の混み合いとの相関関係を記録しました。
歯の混み合いの診断は、Lundström が提案したセグメント化アーチ分析に基づいていました。
全体の評価に加えて、18~34歳(n = 63)および35歳以上(n = 62)の年齢グループについて個別に評価を行いました。
結果: 歯の混み合いに性別による違いは認められませんでした。 35歳以上の患者は、有意に多くの歯の混み合いを示しました。
疾患の加齢による増加が記録されました。摩耗の程度と歯のう蝕の個々の発生率は、歯の混み合いの程度とは相関しませんでした。
対照的に、歯の破損(p < 0.001)、歯の破折(p = 0.004)、歯肉出血(p = 0.022)、浅い歯周ポケット(p < 0.001)、および 3.5 mm を超える歯肉退縮(p < 0.001)については、全体集合における歯の混み合いの程度の差が判明した。
歯の破損(p < 0.017)および歯の破折(p = 0.036)のある若年患者と、浅い歯周ポケット(p < 0.001)および 3.5 mm を超える歯肉退縮(p < 0.001)のある高齢患者では、歯の混み合いの程度に相関関係があることが判明した。
実質的に生理的な歯の混み合いの場合(歯の混み合い < または = 2 mm、n = 31)の疾患発生率を、極度の歯の混み合いの場合(歯の混み合い > または = 5 mm、n = 30)で記録された疾患発生率と比較した。
5 mm 以上の歯の重なりのすべての症例で歯肉炎や歯の損傷が発生し、浅い歯周ポケットは 3 倍、3.5 mm 以上の歯肉退縮は 12 倍多く発生しました。
深い歯周ポケットの存在は、重なりの程度に起因するものではありませんでした。
結論: 歯の硬組織および歯周組織の疾患リスクの根底にある多因子病因に関して、個別の「宿主因子」としての 3 mm (閾値) を超える前歯の重なりは、慢性炎症プロセスの累積的なリスクの可能性を示し、その結果は高齢になって初めて現れます。
これにより、予防治療戦略の枠組み内で治療の適応が生じます。

Effects of crowding in the lower anterior segment–a risk evaluation depending upon the degree of crowding. 
という論文に歯周病は叢生の影響よりも宿主因子の影響の方が大きいことが述べられています。

一方、
不正咬合と歯周病の関連性に関する新たな知見当為文献があります。
人口ベースの横断的研究「ポメラニアの健康に関する研究」から集められた被験者における喫煙と比較することで、不正咬合と歯周病の関連性を調査することを目的としました。
材料と方法: 20~39 歳の歯のある被験者 1,202 名を対象に、矢状面顎間関係、不正咬合の変数、社会人口統計学的パラメータを選択しました。
半口設計で歯ごとに 4 か所の探針深度 (PD) と付着損失 (AL) を評価しました。
分析は、被験者、顎、歯のレベルでマルチレベル モデルを使用して実施しました。
結果: 犬歯領域で確認された遠心咬合、犬歯の異所性位置、前方間隔、深い前歯オーバーバイト、および矢状面オーバージェットの増加は、AL と関連していました (p 値 <0.05)。不正咬合と PD の関連: 歯肉接触を伴う深い前歯オーバーバイト (オッズ比 [OR] = 1.40、95% CI: 1.08-1.82、p 値 = 0.0101) および前歯交叉咬合 (OR = 1.75、95% CI: 1.29-2.38、p 値 = 0.0003)。
歯の混み合いに関しては、重度の前歯の混み合いのみがPDと中程度から大きな関連性を示しました(OR = 1.93、95% CI: 0.89-4.20)。
喫煙と比較すると、不正咬合の全体的な影響は、ALでは約半分、PDでは約3分の1でした。
結論として、不正咬合または形態学的パラメータは歯周病と関連していることがわかりました。

歯列不正、あるいは不正咬合があると顎関節症になりやすいか?

この答えもはっきりYesとはいえないようです。
顎関節症の患者さんおいてスプリント療法(マウスピースのようなものを口の中に入れて顎関節症を治す方法)と矯正治療の効果を比べてみたところ、症状の改善は主にスプリント療法によるものであったと述べています。
この論文はある意味では歯列不正と顎関節症は関連が薄いことを示唆しています。

歯列矯正により顎関節症を治せるとは限りません。顎関節症のある患者さんは特に十分な配慮の下に矯正治療が行われなければなりません。
不正咬合が運動機能に与える影響は小さいといえます。

そもそも歯並びの悪いプロのスポーツ選手も大勢いますよね。

歯列不正、あるいは不正咬合は体の成長発育に影響するか?
不正咬合が咀嚼機能に影響を与えて身体の成長発育が阻害されることはきわめて希です。

一般的には歯列不正により口元にコンプレックスをもち内向的性格になるといわれています。
しかしながら、たとえ歯列不正があっても明るい性格の方は大勢いいます。

以上により、歯並びが悪くとも予防をしっかりしていれば問題ないということになります。
ただし、悪くなりやすい環境にありますので、しっかりとメインテナンスは行う必要がありますね。

 

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