コラム
2024年09月02日

入院時の口腔健康状態が入院転帰に及ぼす影響

栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。

誤嚥性肺炎の方の口腔健康状態が退院に及ぼす影響について書いていきます。

誤嚥性肺炎は、外部からの異物や体液が誤って気道に入り、それが原因で肺炎が発生する状態を指します。
主に誤嚥(嚥下の際に食物や液体が気管に入ること)が原因で起こります。高齢者や誤嚥の危険性が高い人々、嚥下障害のある患者、意識障害のある患者などが誤嚥性肺炎のリスクにさらされることがあります。

  1. 症状: 誤嚥性肺炎の症状には、発熱、呼吸困難、咳、喀痰(せき痰)、胸痛などが含まれます。
    高齢者では、異常行動や認知機能の変化が見られることもあります。
    以上のように症状出る場合はよいのですが、不顕性誤嚥と言って症状が出ない誤嚥もあるので注意が必要です。
  2. 原因: 主な原因は誤嚥ですが、口腔内や喉頭の感染症、食道の機能障害、嚥下の問題、意識障害、胃内容物の逆流などが誤嚥性肺炎の原因となることがあります。
  3. リスク因子: 高齢者、誤嚥の危険性が高い患者、嚥下障害のある患者、意識障害のある患者、口腔内や喉頭の異常などがあると、誤嚥性肺炎のリスクが増加します。
  4. 診断: 診断には臨床症状やX線検査、CTスキャン、血液検査などが利用されます。嚥下検査や気管支鏡検査も行われることがあります。
  5. 治療: 治療には抗生物質の使用が一般的ですが、それに加えて患者の症状や状態に応じて酸素療法、気管吸引、栄養補給などが行われることがあります。
  6. 予防: 誤嚥性肺炎を予防するためには、嚥下機能の評価や管理、適切な姿勢で食事を摂ること、口腔ケアの重要性、リハビリテーションなどが考慮されます。
    誤嚥性肺炎は早期に診断・治療が必要であり、予防策の重要性も強調されます。
    特に高齢者やリスク因子のある患者に対しては、定期的な評価やケアが重要になります。

本題に入ります。

この研究の的は、誤嚥性肺炎の高齢患者の入院時の口腔健康状態が入院転帰に及ぼす影響と、入院中にそれがどのように変化するかを調査することです。
方法は、この前向きコホート研究には、誤嚥性肺炎の診断で急性期病院に入院した65歳以上の患者が参加しています。
患者の基本的な健康情報、入院期間(LOS)、口腔健康評価ツール(OHAT)、機能的経口摂取量スケール(FOIS)、肺炎重症度指数、臨床虚弱スケールスコアが記録されました。
患者はOHATスコアの中央値に基づいて2つのグループに分けられ、グループ間の変化が時間の関数として分析されました。
重回帰分析を使用して、退院時の LOS、FOIS スコア、入院時の OHAT スコアの関係を調べました。 結果: 89 人の参加者 (52 人が男性、平均年齢 84.8 ± 7.9 歳) のうち、75 人が退院しました。
患者の口腔健康状態は、OHAT による最初の評価後 3 週間にわたって毎週測定され、スコア中央値は 7 であり、グループ間で有意な差がありました。

さらに、OHAT スコアは滞在期間中、両グループ内で改善しました。
入院時の OHAT スコアは LOS と独立して関連していた (B = 5.51、P = 0.009)。
結論: 入院時の口腔健康状態の悪さは入院期間の長期化と関連していた。
高OHATグループと低OHATグループの両方でOHATスコアの改善が見られました。
誤嚥性肺炎の発症予防と治療には、口腔の健康状態が非常に重要です。

はじめに、65歳以上の高齢者の肺炎は、80%以上が誤嚥性肺炎だと報告されています。
そのため、高齢化社会では深刻な問題と考えられます。
さらに、口腔の状態と摂食嚥下障害は、誤嚥性肺炎の主なリスクファクターです。
介護施設において、専門的な口腔ケアは誤嚥性肺炎の頻度を有意に低下させます。
加えて、病院では、術前の口腔ケアは術後の炎症を減少させます。
さらに、口腔の状態は嚥下能力と関連しており、経管栄養者は、経口摂取者と比較して口腔内フローラが有意に悪くなります。
口腔内の連鎖球菌と嫌気性菌が誤嚥性肺炎の発症に重要な役割を果たしています。
医療・介護関連肺炎患者の気管支肺胞洗浄液中の細菌フローラ解析を行った以前の研究では、患者の誤嚥リスクにより割合は様々でしたが、口腔連鎖球菌が主な微生物として検出されました。
誤嚥性肺炎の主な原因は常在口腔細菌の誤嚥なので、抗菌薬のターゲットには常在口腔細菌も含まれます。
そのため、入院時の口腔の状態は、誤嚥性肺炎の治療効果に影響を与える可能性があります。
口腔ケアが誤嚥性肺炎を予防する事が報告されています。
しかし、入院時の口腔状態が、誤嚥性肺炎患者の予後に与える影響はまだよくわかっていません。
つまり、口腔状態がよければ誤嚥性肺炎を予防するのは確かですが、誤嚥性肺炎の治療においての重要性がわかっていない、ということです。
以前の後ろ向きコホート研究では、誤嚥性肺炎で入院した高齢者に専門的な口腔ケアや機能管理のような歯科的な介入を行った場合、在院期間の短縮と退院後の経口摂取について効果的であったと報告されています。
本研究は、入院時の口腔の状態が入院アウトカム(在院期間と退院時の経口摂取)に与える影響と、高齢の誤嚥性肺炎患者の口腔状態が入院中にどのように変化するかを明らかにすることです。
入院時のよい口腔状態がよい入院アウトカムの指標となる、例えば、在院期間が短くなり、退院時に経口摂取が可能である、という仮説を立てました。

全ての被験者が2021年4月から2022年3月までの間に誤嚥性肺炎の診断で入院しました。
採用基準は、
(1)65歳以上、
(2)胸部X線またはCTで誤嚥性肺炎の診断がつく
(3)誤嚥の目撃者としての家族介護者や医療スタッフ、あるいは窒息、嚥下障害、認知症、虚弱などの他の寄与因子の存在
(4)肺炎が示唆される急性呼吸器徴候(咳、痰、熱、呼吸困難)があることです。
除外基準は(1)データが欠損している、(2)がん、結核、ウイルス性肺炎などの診断がついているものです。

基礎的データ、歯科医による口腔診査、FOIS

患者の年齢や基礎疾患などの基礎データ、病院記録から収集しました。
研究終了までの期間、誤嚥性肺炎患者は、専門的な口腔診査と必要なら歯科医師による口腔ケアを1週間に1度うけました。
口腔の状態はOHAT-Jを用いて入院してから1週間以内に評価を行い、その後、初期評価から1、2、3週後に再度OHATで評価を行いました。
嚥下能力はFOISで評価を行いました。

肺炎の重症度とフレイルスコア

肺炎の重症度は市中肺炎のリスク層別化(PSI)で評価しました。
患者背景(性別、年齢、介護施設に入所しているか)、合併症(腫瘍性疾患、肝疾患、心不全、脳血管疾患、腎疾患)、診察所見(異常な精神状態、呼吸数30回/分以上、収縮期血圧90mmHg未満、体温35度未満、または40度以上、脈拍125/分以上)、血液、X線所見(動脈PH7.35未満、血清尿素窒素30mg/dL以上、ナトリウム130mEq/dL未満、グルコース250mg/dL以上、ヘマトクリット30%未満、動脈酸素分圧90%未満、胸水)が含まれます。
最後にトータルPSIスコアを計算します。
フレイルの評価は臨床虚弱尺度(CFS)で行いました。CFSのカットオフ値はCFS7以上は入院1年後の死亡率が高いという報告に基づいて、深刻なフレイルで、全介助を意味する7としました。

統計解析

計測項目は平均±標準偏差として表現されます。
入院時のOHATの中央値で2群にわけました。
Mann-Whitney検定とχ2検定を群間比較に用いました。
加えて、群内のOHATスコアの各週変化の評価にはFriedman検定を用いました。
口腔の状態と入院アウトカム(LOSと退院時FOIS)の関連性を検討するために、重回帰分析を行いました。
さらに、LOSと退院時FOISを従属変数、入院時OHATとFOISと年齢、性別、CFS、PSIスコアを説明変数としました。
入力方法は強制的なもので、性別とCFSスコアは2値として用いられました。
CFSのカットオフ値は7としました。多重共線性を避けるため、分散拡大係数が10未満であることを確認しました。
106人の患者のうち、17人が除外され、89人が該当しています。
75人の患者が退院し、14人(15.7%)が死亡しました。

入院時の患者は年齢84.8±7.9歳、男性58.4%、CFS7以上60.7%、PSI121.4±38.2、OHAT6.8±2.0、FOIS5.5±1.5でした。
OHATの高低による群間比較では、OHATスコア、心不全の割合以外には有意差を認めませんでした。
OHATスコア6~9が全体の68.5%で、最も多かったのが6と7で両方とも19人、21.3%でした。

OHATの変化

入院時のOHATスコアに加えて、OHATスコア高値、低値群間で1週後、2週後、3週後においてOHATスコアは有意差を認めました。
OHATの時系列における変化を示します。
Friedman検定で、両群ともに時間経過でOHATは有意に改善が認められました。

本研究では以下の知見を得ました。
入院時の口腔状態の悪さは、在院期間の長期化に関連する独立した因子でした。
専門的な歯科介入は1週間に1度の介入であってもOHATを改善します。特に入院時にOHATが高かった群では高い改善効果を認めました。
入院時のFOISが良い事は、退院時のFOISが良いこと関連する独立した因子でした。

本研究では、誤嚥性肺炎で入院した高齢者の口腔状態の悪さと、在院期間の長期化が関連する事が示されました。
口腔状態が悪いと、口腔内の病原性微生物の量が増加し、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。PrevotellaやVeillonellaのような嫌気性細菌が支配的な口腔内細菌叢の特定のコミュニティは、特別養護老人ホームに入所している患者の肺炎関連死亡率と有意に関連しており、そのハザード比は13.88でした。
重度歯周病患者の口腔内では嫌気性菌が増加し、それらに対する抗菌薬の使用が必要になります。
さらに口腔状態が悪いことは、気管支肺胞洗浄液中の嫌気性菌数の増加と関連します。
代表的な歯周病菌であり嫌気性細菌であるP.gingivalisは、呼吸器上皮細胞上の肺炎球菌レセプターの発現を他の口腔内細菌よりも有意に増加させます。
加えて、P.gingivalisはIL-6、IL-8などの炎症性サイトカインの発現を誘導します。
介護施設の高齢者の口腔フローラは健康的な成人のものとは全く違っており、経管栄養の患者では、本来健康的な人の口腔フローラにみられないCorynebacterium striatumとStreptococcus agalactiaeも増加しています。
急性期病院患者624人(平均年齢83.8±7.9歳、男性41%)を用いた観察研究では、OHATスコアが4以上の口腔状態の悪さは、明確な死亡や入院期間の予知因子でした。
本研究の結果は以前の研究と一致しています。
本研究の入院時OHATの中央値は7でした。
これは、OHATの中央値が1である以前の研究と比較して本研究の多くの人が口腔状態が悪い事を示唆しています。
これは、我々が誤嚥性肺炎罹患高齢者をターゲットとしており、この人達はだいたい口腔状態が悪いからでしょう。
本研究の被験者の60%以上がCFSスコアが7より大きく介護が必要でした。
さらに、介護が必要な高齢者の多くが、多剤関連の口腔乾燥による根面カリエスなどの歯科疾患や、認知機能低下や麻痺による歯磨き困難などを有しています。
そのため、介護者の口腔ケアに対する意識や知識など、口腔の健康状態に関連する要因の影響は複雑です。
最初の評価から3週後では、OHAT高値、低値群両群ともにOHATは改善しました。
本研究では、歯科医師が週1回口腔の評価を行い、看護師などのコメディカルスタッフに、患者への口腔ケア指導(ケア中に細菌に汚染された分泌物を誤嚥する可能性を考慮した舌や頬粘膜などの粘膜ケア、ジェルによる口腔保湿など)を行うよう訓練しました。
専門的な口腔ケアと、歯科専門職によるコメディカルへの口腔衛生教育は誤嚥性肺炎を予防すると報告されています。
歯科専門職を含む包括的なアプローチも誤嚥性肺炎高齢者、特に入院時に口腔状態が悪い患者に効果的です。
一方で、本研究では、入院時にOHATスコアが高く口腔状態の悪かった群では、3週後の評価においてもOHAT低値群と比較して、有意に口腔状態は悪い結果でした。急性奇病等における575人の高齢者を用いた過去の研究では、入院時に75%が口腔状態が悪く、1週後でも62%が悪いままでした。
専門的な歯科介入は続けなければ効果が低いことも示されています。口腔の健康状態もまた、退院後の予後と独立した関連因子です。
また、口腔、嚥下機能低下は低栄養とサルコペニアを引き起こし、誤嚥性肺炎のリスクが上昇します。
すなわちこれらの因子間には周期的な関係があります。病院から地域まで口腔と嚥下機能を継続的に評価していくシステムを作ることも重要です。

誤嚥性肺炎高齢患者では、入院時FOISが良い人は、退院時FOISもよい傾向が認められました。
そのため、入院に関係なく、よい嚥下機能を維持することは重要と考えられます。
日本では、歯科医が摂食嚥下障害のVEを、在宅または施設への歯科訪問診療中に行っています。
入院中のFOISの著しい低下を防ぐために、地域で嚥下機能評価と摂食嚥下リハビリテーションを提供できるシステムが有効でしょう。
高齢者の誤嚥性肺炎の診断についてのレビューでは、誤嚥性肺炎は患者の嚥下能力よりも全身的なフレイルの方が関連すると述べていますが、肺炎患者の嚥下能力と入院アウトカムの関連を調べるためには、VEとVFを使った研究も必要です。
OHATは毎週評価しました。
しかし、死亡、退院に関係なく、患者の体調の悪化により、全てのケースで評価することはできませんでした。
入院した誤嚥性肺炎患者全てを本研究では含めましたが、退院後の追跡は行っていません。
誤嚥性肺炎の治療時に重要なのは再発を防ぐ事です。
そのため、退院後の病状を追跡できる大規模な研究が必要です。
入院時のOHATとFOISスコアは入院アウトカムの指標でもあるので、入院時の簡便な口腔、嚥下評価は入院アウトカムの予知と治療計画の作成に重要です。
特に、入院時の口腔状態が悪い患者には、入院中の状態改善を確実なものにするという点で、専門的な歯科介入は有用です。

本研究は、入院時の口腔の状態の悪さが入院期間の延長と関連する、入院時のよいFOISが退院時のよいFOISと関連する事を発見しました。
誤嚥性肺炎高齢患者はしばしば口腔環境が悪いと考えられるため、医科歯科連携が、肺炎治療の質の向上に有効である可能性があります。
在院日数は口腔状態の良いOHAT低値群が35.6±27.5日、OHAT高値群が51.7±42.1日と見た目上は傾向はありますが、標準偏差がかなり大きいため、有意差は認められなかったと考えられます。
勿論ですが、口腔の状況以外に在院日数を決めるファクターが他に考えられるため、そういったものの影響を考える必要があります。

重回帰分析においては、独立変数が年齢、性別、PSI、CFS、入院時OHAT、入院時FOISの6項目に設定されています

今回の研究から、口の中の状況が良い悪いで在院日数や退院時の食形態に影響が出る事が示唆されました。
日頃から口腔の管理をする重要性についても示唆されたと思います。
誤嚥性肺炎は今回のデータでもある程度死亡率が高いものですし、誤嚥性肺炎、そして入院絶食を契機に一気にレベルがダウンするのをみることが多いですから。

普段から体だけでなく、お口の健康を維持することが大切になりますね。

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