保険でできるPEEK冠について2

栃木県宇都宮市兵庫塚町の歯医者 やまのうち歯科医院の山之内です。

白い被せ物のPEEK冠についての続きを書いてきます。

近年、デジタルデンティストリーの発展により CAD/CAM 冠が急速に普及しており、新たな CAD/CAM用材料として高分子有機化合物 PEEK (polyetheretherketone)が注目されている材料です。
PEEK とはベンゼン環がエー
テル結合とケトン結合によってつながる芳香族重合ポリマーといわれているものです。
優れた機械的性質や高い生体親和性など様々な特性を持ち合わせているため、歯科においても PEEK が臨床的に有用であることが示唆されています。
しかし PEEK のクラウンへの応用に関する報告は少なく、特に大臼歯の全部被覆冠に関して十分な検討がされていないのが現状です。
破壊強度は歯冠補綴装置に必要な材料特性の一つであり、大臼歯全部被覆冠には最大咬合力の 1280N 以上の耐荷重が求められています。
また、咀嚼などの機械的刺激は材料の機械的性質を低下させる原因となるため、繰り返し荷重による補綴装置の破壊強度への影響を検討することが重要です。
現在、硬質レジンでの CAD/CAM 冠の大臼歯全部被覆冠を想定とした研究が多数報告されているが、硬質レジンの機械的特性から金属冠と比較して多くの支台歯の形成量を必要とし、歯髄損傷や MI の観点から、その適応範囲は限られます。
一方、機械的性質に優れた PEEK は、より少ない形成量で大臼歯の咬合力に耐えうる可能性があり、従来の CAD/CAM 冠では適応外であった症例への応用拡大が期待できます。
そこで本実験では、PEEK の大臼歯全部被覆冠への応用を想定し、PEEK 冠の咬合面および軸面の形成量が繰り返し荷重負荷後の破壊強度に及ぼす影響を明らかにすることを目的としています。

下顎右側第一大臼歯のメラミン歯 (B2-306,Nissin Dental Products)に支台歯形成を行っています。
支台歯形態は、咬合面形成量および軸面形成量をそれぞれ変化させています。

咬合面形成量が、中心窩 1.0 mm、機能咬頭 1.5 mm、非機能咬頭 1.0 mm (group 1.0)と、中心窩 1.5 mm、機能咬頭 2.0 mm、非機能咬頭 1.5 mm (group 1.5)としています。
支台歯の咬合面形態は V 形態とし、中心窩が咬合面形成量の最小値となるようにした。軸面形成量は、フィニッシュラインがシャンファー形態、軸面最大豊隆部 1.0 mm (group C)と、ディープシャンファー形態、軸面最大豊隆部 1.5 mm (group DC)とし、計 4 群となりました。
前述の 4 形態のメラミン歯をマスターモデルとして使用しています。
マスターモデルから支台築造用コンポジットレジン (Clearfil DC core Auto mix ONE,Kuraray Noritake Dental)にて各形態のコンポジットレジン支台歯を複製しました。
複製したコンポジットレジン支台歯から CAD ソフトウェア(D2000 dental lab scanner,3Shape)および CAM(WorkNC Dental,Vero Software KK)を用いて上記 4 形態の厚みとなるようにクラウンを設計し、ミリングマシン(DWX-50,Roland DG)を用いて、PEEK ブロック(Tokuyama Dental)からクラウンを各群 24 個ずつ製作しています。
PEEK 冠とコンポジットレジン支台歯をアルコール清拭後、PEEK 冠内面にはサンドブラスト処理(Al2O3, 粒径 70 m, 圧力 20 MPa, 噴射距離 1 cm, 時間 20 s)を行い、超音波洗浄を 5 分間 2 回行います。
その後 PEEK 冠と支台歯にプライマー(BONDMER Lightless,Tokuyama Dental)を 10 秒間塗布後、レジンセメント(ESTECEM,Tokuyama Dental)にて合着し、近遠心、頬舌側から光照射器(optilux501,KaVo Dental SystemsJapan)にて各 20 秒ずつ光照射を行っています。
合着後の PEEK 冠‐支台歯複合体を、疑似歯根膜(厚み 0.25 mm)として付加型シリコーン印象材(CorrectPlus Bite Superfast,Pentron Japan)を介在させ、CEJから2 mm歯根側の位置にアクリルレジン(Palapressvario,Heraeus Kulzer GmbH)に包埋しています。
包埋後、各群半数の試料 (n=12)を 37℃脱イオン水中下で衝突摩耗試験機 (K655-05,Tokyo Giken)にて、直径 4 mm 径ステンレススチール圧子を用いて咬合面中心窩に歯軸
方向から50 N の荷重で24 万回繰り返し荷重を負荷しました。
クラウンと圧子の間にラバーシート(Ivory
Rubber Dums THIN, Kulzer GmbH)を介在させた。残りの半数の試料は 37℃脱イオン水中にて保管しました
全ての試料を万能試験機(Autograph AGS-H,Shimadzu Corporation)にてクラウンが破壊するまで破壊試験を行いました。
直径 4 mm 径のステンレススチール圧子を用い、咬合面中心窩にクロスヘッドスピード 1 mm/minにて歯軸方向に荷重します。
各試料の破壊時最大荷重値を破壊荷重値としています。

破壊試験後の試料の破壊形態を,8 倍実体顕微鏡(APX, APS)にて観察し、2 群(Class A,クラウンのみの破壊;Class B,支台歯の破壊を伴う破壊)に分類しています。
Shapiro-Wilk test を用いて各群の計測値における正規性の検定を行い、破壊試験の測定値に正規性が認められなかったため Dunn’s test with Bonferroni correction を用いてすべての群の組み合わせについて検定を行っています。

結果として
各条件における 1.0/C, 1.0/DC, 1.5/DC, 1.5/DC の破壊荷重値の平均値および標準偏差は以下それぞれ MC0群で 2287.8±164.6 N,2627.5±220.5 N,2195.8±132.3 N,22543.9±162.9 N,となり、MC 群ではそれぞれ 2564.0± 328.8 N,2977.9 ± 357.0 N,2201.5 ± 180.7 N,2210.1 ± 137.1 N となりました。
MC0 群では、1.0/DC が 1.5/C に対して有意に高い値を示し、MC 群では 1.0/C と 1.5/C,1.0/DC と 1.5/C および 1.5/DC 間に統計学的有意差が認められました。
また MC0 群と MC 群における各形成量同士の比較では、同一形態の試料では繰り返し荷重前後で統計学的有意差を認められませんでした。
各条件での破折形態の ClassA および ClassB の試料数の比 (ClassA : ClassB) は、1.0/C、1.5/C、1.0/DC、1.5/DC の順に MC0 群で、(12 : 0)、(11 : 1)、(3 : 9)、(0 : 12)、MC 群で(8 : 4)、(12 : 0)、(0 : 12)、(1 : 11)となりました。

MCO 群および MC 群ともに平均の破壊荷重値が大臼歯咬合力の最大値以上である 2000 N を超えた値を示し、いずれの試料も口腔内の動的環境下においても大臼歯最大咬合力に耐えられると考えられました。
MC 群では 1.0/C が 1.5/C に対して、また 1.0/DC が 1.5/C および 1.5/DC に対して有意に高い破壊荷重値を示しています。
PEEK は弾性率が小さいため PEEK 冠に荷重を加えると荷重点直下に大きな負荷がかかり、荷重点からの垂直距離が遠いほど PEEK の絶対的変形量が大きくなります。
本研究では咬合面と垂直に荷重を加えたため、咬合面の厚みの厚い試料の方が厚みの薄い試料よりも絶対的変形量が大きくなることにより、より小さい荷重で PEEK 冠が破折したと考えられています。
さらに本研究では接着後の PEEK 冠‐支台歯複合体について破壊試験を行いました。
クラウンと支台歯の弾性率の不一致がクラウンの破折挙動に影響することが報告されており、本研究で用いた PEEK 冠の弾性率は支台歯の弾性率よりも小さかったため、支台歯よりもPEEK が先に変形し、咬合面から PEEK 冠の破折が起こったと考えられます。
本研究では、MC0 群と MC 群ともに、1.0/DC が 1.5/C に対して有意に高い破壊荷重値を示しました。
有限要素解析において PEEK 冠はクラウンの軸面の厚みが厚い方が支台歯にかかる応力が大きくなることが確認されており、軸面の形成量が破壊荷重値に影響を与えると考えられます。
しかし本実験では MC0 群および MC 群ともに 1.0/C と 1.0/DC 間、および 1.5/C と 1.5/DC 間に統計学的有意差が認められなかったことから、軸面よりも咬合面の形成量の方がより破壊荷重値に影響を与えたと考えられます。

また本研究では、同一形成量のPEEK冠は繰り返し荷重試験後にも破壊荷重値の低下が認められず、PEEK冠が長期にわたる口腔内の環境に耐うる可能性が示唆されました。
本研究では PEEK 冠の大臼歯全部被覆冠への応用を想定としており、咬合面および軸面形成量は、1.0/Cでは全部金属冠、1.5/DC では硬質レジン CAD/CAM 冠の支台歯形成量を想定しています。
現在大臼歯を想定した硬質レジン冠 CAD/CAM 冠の破壊強度に関する研究は多く報告されていますが、その材料特性からいずれも1.5~2 mm 以上の形成量を確保しており金属冠に比べて支台歯削形成量が多くなっています。
一方 PEEK 冠は金属冠と同様の支台歯形成量においても十分な破壊荷重値を示し、PEEK 冠が硬質レジン CAD/CAM 冠に比べてより多くの症例に適応できる可能性が示唆されました。

破壊様相において groupC の方が groupDC に比べ、Class A の割合が多くあります。
また ClassB ではすべての支台歯に包埋材縁下の歯根まで及ぶ破折線が確認された。クラウンの破壊時に支台歯の損傷がない場合に
は再度補綴することが可能であり、本研究においては軸面形成量が少ない方が再補綴が可能となる可能性が高いことが示唆されました。
本研究では,繰り返し荷重試験により咀嚼サイクルを再現したが,側方運動や,口腔内の温度変化については検討していません。
今後は側方運動や温度変化に対する PEEK 冠の挙動についてもさらに検討していく必要があると考えられます。
結論
本研究の結果から、PEEK 冠は繰り返し荷重負荷後も大臼歯最大咬合力以上の破壊荷重値を示し、オールセラミックや硬質レジン CAD/CAM 冠よりも支台歯形成量が少なくても大臼歯最大咬合力に耐えうる可能性が示唆されました。
また繰り返し荷重負荷前後で破壊荷重値の低下は認められず、PEEK 冠が口腔内の動的環境下において長期使用に耐えられる可能性が示唆されました。

さらに,クラウンの軸面の厚さの薄い試料では,破壊後に支台歯の損傷が少なく、補綴装置が損傷した場合も再補綴可能である可能性が示唆されました。
右側のものがPEEK冠です

この度使用することができるようになったPEEK冠は、CADCAM冠より、歯面の形成量が少なくてもある程度の強度に耐えうる素材となっています。
そのため、奥歯の被せ物に対して行うことができるようです。
ただし、金属のような物性はないので、金属の被せ物に比べて割れやすく取れやすい可能性があるようですね。
理解したうえで行うようにしましょう。

 

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